平井理央のスポーツ大陸探検記

Vol.5

2019.04.09

パラスポーツイベント
「あすチャレ!運動会 日本一決定戦!」
レポート

スポーツ好きな方でも、パラスポーツというと見たことがなかったり、少し距離を感じたりする方が多いのかなと思う。かくいう私もそうでした。でも初めてパラリンピアンにインタビューしてから、パラリンピックに興味を持ち、リオ2016大会は現地で観戦したり、仕事としてイベントに携わったり、趣味として観戦しているうちに、今ではその魅力を伝えたいと思うようになりました。
私は選手のストーリーであったり、魅力的な選手に惹かれて、その競技をフォーカスすることが多く、パラスポーツに関してもまさにそのようなきっかけだったのですが、また違ったアプローチでパラスポーツを広める取組みがあると聞き、とある大会を取材してきました。

東京2020パラリンピック大会まで527日となった3月17日、東京・お台場にある日本財団パラアリーナで「あすチャレ!運動会 日本一決定戦!」が行われました。この大会は、パラスポーツで日本一を競う運動会で、今回が記念すべき第1回目。参加した方々の声をお届けするとともに、この大会の意義について主催する日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)常務理事の小澤 直さんに話をうかがいました。


撮影:竹見 脩吾


撮影:竹見 脩吾


会場が熱気に包まれるなか、定刻の12時に開会式が始まりました。日本財団パラリンピックサポートセンター会長の山脇 康さんが「障がいのあるなしに関わらず、パラスポーツの面白さや楽しさを体験していただきたい。この大会を通じて、ここにいらっしゃる皆さん一人ひとりがリーダーとなり、できるだけ多くの人たちを巻き込んで、東京2020パラリンピック大会を盛り上げ、その後の共生社会の実現を目指して進んでいっていただきたいと思います」と挨拶。続いて、全盲のミュージシャン・木下航志さんによる国歌斉唱が行われました。


撮影:竹見 脩吾


今回の参加チームは、JXTGエネルギー、デンソー、マツダ、さっぽろ健康スポーツ財団、東北福祉大学、大阪体育大学、久留米大学の7チーム。いずれも全国7ブロックの激戦を勝ち抜いた優勝チームです。さらに、シドニーパラリンピック車いすバスケットボール日本代表の根木慎志さんや元バレーボール日本代表の大林素子さん等のアスリートや映像クリエイターの皆さんで構成されたスペシャルチームも参戦し、シッティングバレーボール、ゴールボール、ボッチャ、車いすポートボール、車いすリレーの5種目で日本一の座を競い合いました。


撮影:平井 理央


撮影:竹見 脩吾


競技について簡単に説明をすると、シッティングバレーボールは座ったままで行う6人制のバレーボール。返球するために3回まで触ることができますが、同じ人が2回続けて触れないのは通常のバレーボールと同じです。


撮影:竹見 脩吾


ゴールボールは鈴入りのソフトボールを使って行う競技で、アイシェードを着用した選手が仲間の声やボールの音を頼りに、相手が守るゴールに向かって投げて得点を競います。そしてボッチャは、赤と青のボールを各チーム6球ずつ的になるジャックボールに投げ合って、よりジャックボールに近づけたチームが勝ちとなる競技です。


撮影:竹見 脩吾


各チームともコミュニケーションをとりながら助け合い、一丸となって熱戦を繰り広げていました。皆さんすごく楽しそうなのが印象的で、時々爆笑する場面も。とはいっても、勝負に挑む姿は真剣そのものです。


パラスポーツは面白い!参加者が共通して実感

シッティングバレーボールで、華麗なアタックを見せたスペシャルチームの大林素子さんは参加した感想をこう話してくれました。
「座ってお尻で移動するという経験が私たちはないので、そこでの俊敏性がまず難しいですね。大会のコンセプトとして、パラスポーツを知ってもらうことがあります。パラスポーツは健常者も障がいがある方も、それに私たちから見ての息子世代から親の世代まで、みんなが一緒に楽しめるスポーツなんだなというのを実感しました」。


撮影:竹見 脩吾


撮影:平井 理央


また、2年前にパラスポーツの種目を体験して動画を配信した経験がある映像クリエイターのMASUOさんはその時の経験を踏まえてこう言いました。
「パラスポーツは障がいのある方がやっているスポーツというイメージが視聴者にあったみたいですけど、そうではなくて1つの競技、スポーツとして楽しいのだということを前回、伝えました。でも、今回のほうが、よりパラスポーツの楽しさを伝えられそうな気がします。実際に体験してみると、魅力はいくつかありますが、ひとつはシンプルにゲームとしてものすごく面白いこと。もうひとつは健常者も障がいのある方もフラットに戦い合い、ゲームを楽しめること。今回の体験でハマったのがボッチャ。最後の最後まで勝負がどちらに転ぶかわからないところが面白いですね。それに僕のチームにもいますけれど、視覚に障がいがあっても参加できる。誰でも同じ条件で楽しめることを痛感しました。動画クリエイターとしては、“僕が体験してみて、実際にこんな感じだったよ”というのを、僕自身の素の言葉で、動画を通して伝えようと思います」。


撮影:竹見 脩吾


また、参加チームの中でも「僕らは普段、よさこいの踊りとボランティアをやっているメンバーでチームを編成しました」と話すのは、企業チームの中でひときわ盛り上がっていたデンソーチームのキャプテン神谷竜二さん。デンソーチームには、車いすユーザーの方もメンバーとして参加していましたが、この大会だけでなく他の活動も一緒に参加しているとのことです。「普段、よさこいを一緒にやっています。彼は、北京大会の車いすバスケットボールの日本代表だったので、今回に関してはプロなので全て教えてもらいました」。


撮影:竹見 脩吾


撮影:平井 理央


「僕たちは大学の先生に声をかけられて集まったチームです。障がい者スポーツの授業があるので、ボールや専用コートなど環境が整っているので、練習できました」と話すのは、この春から3年生になる久留米大学人間健康学部の上村凜太郎さん。「ボッチャやゴールボールなどがパラスポーツと知らずに出会いました。競技自体が面白くて、これらがパラスポーツだと知ってパラリンピックも観てみたいと思いました」とも。


撮影:竹見 脩吾


全種目を終え、栄えある日本一に輝いたのは、さっぽろ健康スポーツ財団。2位は大阪体育大学、3位は東北福祉大学という結果になりました。


撮影:竹見 脩吾


撮影:竹見 脩吾


撮影:竹見 脩吾


みんなが一緒に楽しめることを伝えたい

平井:この運動会はどういうきっかけで生まれたのでしょうか。

小澤 直さん(以下、小澤):私たち日本財団パラリンピックサポートセンターでは、「あすチャレ!Academy」を始めとするいろいろな教育プログラムを持っています。ある企業さんと話をした時に、社内でパラスポーツを広めるために気軽に体験できるものはないかと相談を受けました。その時に「あっ、そうだ!」、企業の運動会をパラスポーツに変えようと思いついて、そこから始まったプログラムです。

平井:パラスポーツで運動会をするということのメリットはどんなところでしょうか。

小澤:老若男女、誰でも参加できるということ。それと、障がいがある方が健常者に交じって一緒に競い合えるというのが一番だと思います。レクリエーションにしても仕事にしても、普段はなかなか一緒にやるのは難しい面がありますが、普通に一緒にスポーツをできるのがとにかく素晴らしい。企業でも法定雇用率が定められており、ますます障がい者の方も増えていますけれど、そういった方々が参加できるプログラムは貴重ですので、それにも活用していただきたいです。


撮影:竹見 脩吾


平井:実際に運動会を行った企業や参加した方々からはどんな声が多いですか。

小澤:アンケートを取ると、ほぼ100%近くが「大変満足」という感想をいただいています。
満足でも「満足」「大変満足」という枠がありますが、ほぼ「大変満足」なんです。なかなかこういうアンケート結果は珍しいですよね。それだけみんなが楽しめる。運動神経がそれほど良くなくてもみんなで競い合える、貴重なプログラムではないかと思います。

平井:勝負に熱くなっている感じがありつつ、ちょっとダメだったり、負けても笑顔が出るところが特徴的だなと思って競技を見ていました。

小澤:いわゆる、バリバリでスポーツをやっている人たちではない人たちも一緒にやっているので、そういうことになるのでしょうね。

平井:この「あすチャレ!運動会 日本一決定戦!」はどういう意図で開催が決まったのでしょうか。

小澤:競うこと自体、皆さんが非常に真剣になる一つの要素なんですね。そうであれば、「日本一決定戦」を作って、そこを目指して競い合うことになれば、みんなが求心力を持ってやるんじゃないかと考えて企画しました。


撮影:竹見 脩吾


平井:開会式のVTRもすごく格好良くて、参加者の方々もテンションが上がっていましたね。
この舞台をみんなが目指して、これから頑張っていく場所にしたいという思いですよね。

小澤:そうですね。このような大会があれば、みんなが目指すきっかけになると思うし、特に大学によっては、パラスポーツサークルみたいなものを作り、それで参加されているところもあるんですよ。これからそのような動きが、もっともっと進むのではないかと思います。

平井:高校生クイズ大会があるから、クイズ研究会が盛り上がるという感じですよね。それにしても、今は大学のサークルにパラスポーツがあるんですね。

小澤:最初は福祉に関係する東北福祉大学だからかな、と思っていたのですが、全国を回ってみると結構、パラスポーツができ始めているんです。今回勝ち上がってきた久留米大学もそうだし、予選で負けてしまった関西学院大学や広島大学などにもありました。

平井:大学でそういうサークルができると、小・中学校や高校の部活やクラブ活動にも広がる可能性はありますよね。


撮影:竹見 脩吾


小澤:サークルで仲間を集めるので、そういう広がり方もあるのかなと感じています。

平井:今大会の1日を通して、パラサポとしてどういうことを伝えていきたいですか。

小澤:一般の人からすると、パラスポーツはまだまだ身近ではありません。身近でないと感じている方が多いと思うので、パラスポーツは誰でも気軽に楽しめるんだよっていうことを知ってもらいたいという思いがあります。そういった意味で、今回は映像クリエイターの方たちにも参加していただいています。その目的の一つは、子供たちにパラスポーツはこんなに楽しいよっていうことを伝えるために、彼らに発信してもらいたいと思っています。

平井:確かに子供の目から見たら、大人がこんなに笑って楽しんでいるというのは魅力的なものに映りそうですよね。

小澤:多分、子供たちは車いすはゴーカートじゃないけれど、そういう“マシーン”的な感覚の方が強いようです。実は、3年ぐらい前は社会的にも「車いすで遊ぶのっていいの」っていう雰囲気がまだあったんです。その時に「社会が既に変わってきているので大丈夫ですよ」って話をしました。今はもうそのような声も少ないので、急速に社会が変わってきているのが実感としてあります。

撮影:竹見 脩吾


障がい者と触れ合う入り口としてパラスポーツは最適

平井:東京2020パラリンピックまでもうすぐ500日となりますが、小澤さんはそこに向けてどのような活動をしていこうと考えていますか。

小澤:とにかく多くの人にアンテナを立てたいと思っています。私はスマホのゲームにあまり興味がないので、情報が多く流れてきてもアンテナが立っていないから全く引っかからない。パラスポーツも、どんどん情報が流れ始めているので情報が引っかかるように、例えば学校の教育プログラムに入れていくとか、こういう運動会を広めていくとか、そのような活動をどんどんやっていきたい。アンテナが立てばテレビやメディア情報などいろんなものが引っかかるようになるので、そういう作業を地道にやっていきたいですね。
昨年は、教育プログラムや運動会などいろいろなプログラムを年間600回ぐらいやっています。その数をもう少し増やしたい。ありがたいことに、先ほど話したように日本財団パラリンピックサポートセンターでは「あすチャレ!Academy」や「あすチャレ!School」などのプログラムを持っています。アスリートの方々に講師をやっていただいていますが、パラアスリートの方も講師をやりたい!と、どんどん手を挙げていただいています。おそらく、パラアスリートの方々にとっても、彼らが広めることで彼ら自身の偏見も無くなるでしょうし、パラスポーツも発展していく。僕は社会の変化とパラスポーツの変化というのは、車の両輪だと思うんです。だから、それを進めていきたい。パラアスリートもみんなそう思っているのではないでしょうか。

撮影:竹見 脩吾


平井:今後もパラスポーツが発展し続けていくために、この社会の中でパラスポーツが持つ役割が2020年をきっかけに一つの核となるといいですよね。

小澤:イメージでいうと福祉的なものではなくて、みんなが一緒に交ざって楽しめるものなんだというのを2020年までに伝えることで、それがその先、当たり前になるような土台作りをやっていきたいですね。地方に行って、教育委員会などにお伝えしているのは、1種目でもいいから小学校の運動会に入れて欲しいということ。1種目でも加われば、アンテナが立ち始めるので、こういうスポーツがあるんだと皆が知るきっかけになり、それが一番簡単なことじゃないかなと考えています。

平井:確かにそうですね。多くの方が玉入れ競争はやったことがあるし、知っていますものね。

小澤:例えば、車いすってこうなんだ等、競技を通して興味がわきます。そうすれば、学校の障がい者の子供たちもきちんとした目で見てもらえるようになりますし、普通に接することができるようになります。

平井:知らないと、どのように接したらいいかわからないということがありますが、競技を通して車いすはこんな感じとか、目が見えないのはあんな感じなど、知っていると身近になりますからね。

小澤:日本の教育では、仮に障がい者が一人いるとすると、体育の時間は見学か勉強していてねという話になるけれど、カナダの場合はみんなでやるにはどうしたらいいか、みんなで考えなさいという話になるんですね。そこが大きな違いで、それが理想です。障がい者と身近に接してきた子供たちが大人になれば、みんながそういうふうに考えられるようになるのではないかな。僕の世代は、そういうことをいっさい経験してこなかったので、むしろ子供たちの方がコミュニケーションに壁がないですよね。運動会に1種目入れたらいいというのは、まさにそれと同じで身近に感じられるものを子供の頃から体験するのは重要だと感じています。

平井:そうすると、運動会というのはキーワードとして大きいですよね。

小澤:教育というと先生方も身構えちゃうと思うんです、特に障がい者の問題となると。そういうことを考えずに気軽にできるというのが大きい。だから入り口としては、パラスポーツっていいなと思いますね。

平井:子供たちが日本一を目指す場所があるのは素敵ですね。「あすチャレ!運動会 日本一決定戦!」は2020年以降も続いていくといいですね。


撮影:竹見 脩吾


撮影:竹見 脩吾


【編集後記】
この大会を通じて、とても印象的だったのが、参加大学生が言っていた「ボッチャってパラリンピック競技にあるんだなぁと思うと、見てみたいと思いました」という言葉。パラリンピック独自の競技であるボッチャが、彼の中では「自分たちがプレーした競技」というのが先にきています。きっと彼はボッチャ日本代表のプレーにものすごく興奮されるんじゃないかなと思うと、こうやって興味を持った方たちが、気軽に観戦できるパラスポーツであってほしいなとも感じました。
そして、パラリンピックプレイヤーとなる今年は、プレ大会という意義もあり、関東近郊でも国際大会や国内の大きな大会が開催される予定になっています。私も色々な競技を観戦するつもりです!



<お知らせ>
当日の模様は、本イベントに参加された動画クリエイター・Masuoさんの
Youtubeでもご覧いただけます。
https://youtu.be/kCe4SPXOIcQ
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平井理央

Profile

平井理央

1982年11月15日、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、2005年フジテレビ入社。「すぽると!」のキャスターを務め、北京、バンクーバー、ロンドン五輪などの国際大会の現地中継等、スポーツ報道に携わる。2013年より、フリーで活動中。趣味はカメラとランニング。著書に「楽しく、走る。」(新潮社)がある。