平井理央のスポーツ大陸探検記

Vol.4

2019.03.01

「AKATSUKI FIVE」
バスケットボール男子日本代表
インタビュー

日本バスケットボール界にとって、勝負の年が始まっている。そんな話を耳にして、私はバスケットボール日本代表へのインタビューを申し込んだ。
B.LEAGUE(以下、Bリーグ)が発足して3年が経ち、アリーナスポーツの成功例としても語られ、認知度が高まるとともに人気が上昇しつつあるバスケットボール。バスケ界のトップアスリートたちは、この現状を、どう感じているのか。FIBAバスケットボールワールドカップ2019出場を懸けた、アジア地区2次予選Window6を直前に控えたなか、FIBAバスケットボールワールドカップ2019(以下、ワールドカップ2019)、そして東京2020オリンピックへの思いを日本代表の篠山竜青選手(川崎ブレイブサンダース)、比江島慎選手(栃木ブレックス)、田中大貴選手(アルバルク東京)にうかがいました。


※撮影:椋尾 詩



※撮影:椋尾 詩

                    

平井:皆さま、練習お疲れさまです。このお三方は代表以外でも接点はあるのですか?

篠山選手(以下、篠山):比江島と田中の二人は常日頃から仲良くしていますね (笑)

平井:三人は同世代といっていいんですか?

篠山:僕は田中の3つ上。

比江島選手(以下、比江島):僕と田中は一つ違い。

篠山:大学でいうと、4、2、1年です。

平井:大学4年生は1年生からすると、雲の上の存在ですよね。日本代表でもそうですか?

比江島・田中選手(以下、田中):そうです(笑)。

                    

左から、比江島慎選手、篠山竜青選手、田中大貴選手
(撮影:平井理央)

                    

平井:まずは、ワールドカップ2019出場に向けての思いをお一人ずつお聞かせください。

比江島:代表全体としても、ワールドカップ2019出場を目標にやってきました。東京2020オリンピックを前に世界を知っておく必要があると思います。Bリーグが盛り上がってきたなかで、ワールドカップ2019に出ることは夢じゃないと思っています。

篠山:2020年には東京2020オリンピックがありますが、日本にバスケットボールが文化として根づくためには代表の活躍が必要です。今、渡邊雄太選手(メンフィス・グリズリーズ)や八村塁選手(ゴンザガ大学)がアメリカで頑張っているので、これでワールドカップ2019出場が決まれば、日本のバスケットボールがこれまで以上に盛り上がります。バスケットボールの未来のためにも出場しないといけない大会ですし、出場の切符が目の前にあるので、ぜひその切符を掴んで、歴史に名を刻むようなことができればいいですね。

田中:Bリーグができて、バスケットボールの人気が少しずつ上がっているのを感じています。でも、代表が活躍して結果を出していかないと、日本の皆様にはバスケットボールが根づいていかないと思うので、自分たちがワールドカップ2019に出場して、次の東京2020オリンピックにも進むことが望まれます。今の子供たちがこの先、日本のバスケットボールをもっともっと強くしてくれると思うので、まずはその第一歩となるように自分たちがワールドカップ2019出場をしっかり決めたいですね。


※撮影:椋尾 詩


平井:力強い言葉ですね。日本代表やトップの選手は、世界との距離が近づいてきているという実感はありますか?

比江島:僕が代表に入った最初の頃はアジアでもなかなか勝てなかったけれど、前回対戦のように、今ではイランにも勝つことができ、オーストラリア代表にも勝てているので、世界との距離は確実に縮まっています。何より、選手の皆に自信がついているので、そこが本当に成長したところですね。

平井:その躍進のきっかけというか、どういうところが今の日本の強さになっていると分析していますか?

比江島:ワールドカップ2019の1次予選は連敗からスタートして、苦しい時期もありました。でも、渡邊選手、八村選手、ニック・ファジーカス選手(川崎ブレイブサンダース)等が参加してくれたこともあり、崖っぷちの状態からオーストラリア代表に勝ちました。そのあたりから皆に自信がつき始めたように感じています。既に勝ちパターンも分かってきて、皆の成長が感じられるのもそのあたりからです。


比江島慎選手(撮影:椋尾 詩)


平井:田中さんはいかがですか?

田中:最初は連敗スタートでしたけど、そのなかでも国内にいるメンバーは合宿を繰り返し、なんとか必死に頑張って戦い続けました。比江島選手が言ったように、ファジーカスや八村、渡邊選手など高さがある選手が加入してくれたこともあり、今まで日本の課題だったリバウンドなど高さの部分を補うことで、いいバスケットボールができるようになりました。それで一気にレベルが上がったと思います。

平井:Bリーグが発足して3年が経ちますが、Bリーグの盛り上がりによって選手の意識や環境は変わりましたか?

田中:Bリーグができて、皆のレベルも間違いなく上がっています。

平井:それはどのような要因で変化があったと思いますか?

田中:周りの方々がBリーグを作ってくださったということに対して、選手の立場からすると、その期待に応えなくてはいけない、Bリーグを盛り上げていきたいという想いを皆が持つようになったと思います。その意識の違いが以前と比べるとあります。


田中大貴選手(撮影:椋尾 詩)


平井:篠山選手はどう感じていますか?

篠山:もちろん、田中選手が言った部分もあります。それと、単純に“見られる機会”が増えたこと。試合を見に来てくれるお客さんもそうですけど、いろんなところで試合が放送・配信されるようになって人の目にふれることがどんどん増えてきたので、ヘタなことはできないぞという緊張感もあります。

平井:比江島選手はいかがですか?

比江島:二人が言ったことは間違いないですね。それと、NBA経験者の外国人選手がBリーグに参加してくれているので、その分レベルが高くなっていると感じます。帰化選手も増えていますし、それがプラスになっているのではないでしょうか。

平井:そういうところが日本代表のチーム力にも繋がって、世界との距離を縮めているんでしょうね。


篠山竜青選手(撮影:椋尾 詩)


何かやってくれそうな気がする比江島選手と安心感抜群の田中選手

平井:キャプテンの篠山選手から見て、比江島選手のプレイヤーとしての魅力はどんなところですか?

篠山:うーん。比江島選手がいれば勝てる気がする、そう思わせる選手です。

平井:すごい!最高の褒め言葉ですよね。それは安心感があるということですか?

篠山:何かやってくれるんじゃないか、危なくなってもどうにかしてくれるんじゃないか、というものを持っています。

平井:実際に危なくなった場面で、どうにかしてくれた経験があるということですよね。

篠山:学生の時も、僕が代表に入ってからも、一番の勝負所でボールを持っていることが多いのは彼ですし、そういうところがある選手なんですよね。

平井:比江島選手が嬉しそうですね(笑)。なかなか普段聞けないことですよね。

比江島:聞けませんよね(笑)。ありがとうございます。

平井:次に、田中選手のプレイヤーとしての魅力はいかがですか?

篠山:田中選手は安心感ですね。比江島選手は何かやってくれるんじゃないかという気持ちを抱かせる選手ですけど、田中選手は、例えば残り時間10秒で同点という時に、自分たちがディフェンスで相手のエースがボールを持っている場合、比江島選手がマッチアップしていたら「うわ、やばい」と思いますけれど、田中選手なら大丈夫かなって思う。それくらい、日本で一番ディフェンスがすごい選手です。ずっとBリーグのアルバルク東京でエースとして責任を持ってやってきて、昨年は日本一になっています。簡単そうに見えて難しいことを簡単そうにやる、無理はしないで堅実にやるべきことをコツコツとできる選手、そういうところが大きな魅力なんじゃないかな。

平井:田中選手、こういう言葉をいただいて、どうですか?

田中:ありがとうございます。初めてです(笑)。


※撮影:椋尾 詩



※撮影:椋尾 詩


「篠山さんみたいなムードメーカーがいて思いっきり好きなようにできる最高の環境です」(田中)

平井:日本代表、Bリーグともに、ここを見て欲しいというアピールポイントを教えてください。

比江島:自分の役割はドライブというゴールに向かってアタックするのが仕事で、そこが自分の得意とするところでもあります。世界に通用するところを見せたいですし、積極的にやっていきたいですね。

篠山:僕はポイントガードなので、オフェンスでもディフェンスでもいろんな人に指示を出したり、自分のチーム、相手チームを見ながら考えてやっているところを見て欲しい。プレイ中にも幾つもサインを出したりしているので、今のサインは何だろうと想像しながら見たら楽しいんじゃないかな。

平井:周りから見て、篠山選手の考えていることやプレイの指示はわかりやすいですか?

田中:篠山さんは声も大きいし、身振り手振りも大きいのでわかりやすいですよ。僕は、篠山さんから褒めていただいたように、ディフェンスとして相手のエースにつくことがあるので、そこで相手選手に仕事をさせないように、代表の中でしっかりとしたディフェンスの存在感を出したいですね。

平井:代表チームとしてのまとまりは感じていますか?

田中:いい雰囲気なんじゃないかなと思います。ずっと一緒にやってきているメンバーも多いですし、篠山さんみたいなムードメーカーがいて、いい雰囲気にしてくれる先輩方もいます。何不自由なくプレイできる、思いっきり好きなようにやれる、最高の環境ですね。


※撮影:椋尾 詩


「オリンピックでプレイできたら光栄」(比江島)
「東京2020オリンピックの舞台はキャリアの集大成」(田中)
「ルールを知らなくても感動させるプレイを」(篠山)


平井:改めてバスケットボールとの出会いをうかがいたいのですが、始めたきっかけはなんですか?

比江島:僕は3つ上の兄がやっていた影響で、小1の終わりくらいから始めました。

篠山:僕も兄と姉がやっていて、母もミニバスケットのコーチのお手伝いをしていたので、その影響で始めました。

田中:僕は小学校2年の時によく遊んでいた友達がバスケットボールをやりだして、そこについていく形で始めました。

平井:あまり主体的に始めた方はいないんですね(笑)。

田中:すぐ影響されます(笑)。

平井:篠山さんはいくつの時に始めたのですか?

篠山:ミニバスケットのチームに入ったのが小学3年生の時です。

平井:皆さん、小学校低学年で始めてるんですね。始めた時はバスケットボールでオリンピックに出たいということではなく、周りがやっていたからという理由なのですね。東京2020オリンピック出場がまだ決まらない状況ではありますが、もし決まったら自国開催のオリンピックに日本代表が出場するということについて今、どういう想いを持っていますか?

比江島:オリンピック出場は、日本バスケットボール界からすると大きなことです。何より日本で開催するというタイミングで東京2020オリンピック出場が目の前にきているということは、バスケット界全体が盛り上がるのは間違いないです。もしそこでプレイができたら光栄ですし、絶対そこで自分もプレイしたい。できるなら、アメリカなどの強豪チームと対戦してみたい気持ちがあります。

平井:そこまでに、どのような自分になっていたいという理想の選手像はありますか?

比江島:もっともっと技術をあげることはもちろん大事だと思いますし、何よりコミュニケ―ション力ですね(笑)。その時、僕は30歳になっているので、リーダーシップを持ってやっていけたらというのが目標です。

平井:篠山キャプテンの背中を見ろ、ですね。リーダーシップ、コミュニケーションについて何かアドバイスはありますか?

篠山:何ですかね。まずは姿勢をよくする。むちゃくちゃ猫背なんですよ(笑)。

比江島:姿勢をよくしたらリーダーシップがとれるんですか(笑)?

篠山:まずは見栄えからでしょ。胸を張って自信を持っているように見せないと。


※撮影:椋尾 詩



※撮影:椋尾 詩


平井:田中選手は東京2020オリンピックに向けて、どんな思いがありますか?

田中:まず、母国でオリンピックが開催されること自体がすごいこと。なおかつ、それに参加できるチャンスが年齢的にもあると思っているので、チャンスを何が何でも手にしたいです。比江島選手は30歳と言っていましたが、僕は29歳なので、そこを自分がやってきたキャリアの集大成というか、そこに全てをぶつけるという気持ちで向かっていきたいですね。

平井:篠山選手はいかがですか?

篠山:オリンピックが自国で開催されるということが、まず素晴らしいこと。その一生に一度あるかないかのステージで、選手として出場するチャンスがあるというところにいられることがとても幸運だなと思います。子供がいるので、“お父さんはオリンピック選手だったんだ”って言ってもらえたらすごく嬉しいので、オリンピックに出てプレイしている姿を子供に見せたいという想いがあります。

平井:ご自身のお子さんや日本の子供たちにどのような日本のバスケを見せたいと思っていますか?

篠山:オリンピックはいろんな競技を見る機会がありますよね。いつも思うのは、気持ちが込もっているプレイ。そのような感動するプレイは、ルールを知っているとか知らないとかは関係ないということ。ですから、そのような感動はバスケットボールを通じて皆さんにも感じてもらえたらうれしいですし、この人たち格好いいなと思ってもらえるようなプレイをしたいですね。

平井:今日の練習を見ていても皆さん、格好良かったです。ワールドカップ2019、そして東京2020オリンピックで飛躍する日本代表の姿を楽しみにしています。


※撮影:椋尾 詩



※撮影:椋尾 詩



篠山竜青選手

Profile

篠山 竜青(しのやま りゅうせい)

■生年月日/出身:1988年7月20日/神奈川県
■身長:178㎝
■出身校:日本大学
■所属/ポジション:川崎ブレイブサンダース/PG








比江島慎選手

Profile

比江島 慎(ひえじま まこと)

■生年月日/出身:1990年8月11日/福岡県
■身長:190㎝
■出身校:青山学院大学
■所属/ポジション:栃木ブレックス/SG







田中大貴選手

Profile

田中 大貴(たなか だいき)

■生年月日/出身:1991年9月3日/長崎県
■身長:192㎝
■出身校:東海大学
■所属/ポジション:アルバルク東京/SG








【編集後記】
国内リーグが盛り上がることが、選手や競技のレベルアップに、こんなに直接的に影響していて、選手自身がその影響を強く感じているという点が、日本バスケットボールの今に繋がっているのだと思った。日本代表と国内リーグに関わる選手もスタッフも、一丸になる、シンプルにみえて意外と難しい一体感を取材を通じて感じた。それは、もっとバスケットボールを日本で盛り上げたいという共通の想いから。もしかして、少し苦しい時期があったからこそ、今、本当の意味で一つになった日本バスケ界があるのかもしれない。

インタビュー後、田中選手によるフリースロー講座が行われ、平井さんも実際に
やってみました。果たしてその結果は??詳しくは下記動画にてご覧いただけます。

※動画撮影:椋尾 詩




~JTBは、バスケットボール日本代表を応援しています!~
https://www.jtb.co.jp/sports/

平井理央

Profile

平井理央

1982年11月15日、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、2005年フジテレビ入社。「すぽると!」のキャスターを務め、北京、バンクーバー、ロンドン五輪などの国際大会の現地中継等、スポーツ報道に携わる。2013年より、フリーで活動中。趣味はカメラとランニング。著書に「楽しく、走る。」(新潮社)がある。