宮沢賢治が愛した「イーハトーブの風景地」

にほん再発見の旅
2023年04月14日
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童話『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』をはじめ、詩『雨ニモマケズ』など、心に残るたくさんの作品を残した宮沢賢治。明治29年(1896年)に岩手県花巻市に生まれ、大自然の中で培った高い感受性と豊かな想像力によって生み出された作品は、100年以上たった今も人々の心を感動させ、影響を与え続けている。

イーハトーブとは、宮沢賢治による造語で、岩手県をモチーフとしたドリームランドを指す言葉だ。宮沢賢治の作品の源となった岩手県内の風景は文化財保護法に基づき、平成17年(2005年)に「イーハトーブの風景地」6か所が国の名勝として指定され、翌年には、「イギリス海岸」が追加指定された。

鞍掛山 鞍掛山

鞍掛山は滝沢市に位置する標高897mの岩手山の南に立つ山で、登山初心者でも登りやすく、新緑から雪上ハイクまで楽しめると人気を集めている。宮沢賢治も何度も登り、特に鞍掛山とその麓に咲く「おきな草」の草地を愛したといわれ、『くらかけの雪』、『小岩井農場パート1』など、数々の作品にその風景が描かれている。

七ツ森 七ツ森

雫石町には「七ツ森」「狼森(おいのもり)」という歌津の風景が指定されている。「七ツ森」は、「生森(348m)」「石倉森(301m)」「鉢森(342m)」「三角森(299m)」「見立森(316m)」「勘十郎森(317m)」「稗糠森(249m)」の総称で、7つの小高い丘が横一列に連なる様子はとてもユニークだ。宮沢賢治も少年時代からよく訪れていたといわれ、詩『屈折率』、童話『山男の四月』や『おきなぐさ』などの多くの作品に登場する。

「狼森」は、小岩井農場の敷地内に位置する標高379mの小高い山だ。周辺にある「笊森(ざるもり)」、「盗森(ぬすともり)」とともに、童話『狼森と笊森、盗森』に実在の地名で登場する。宮沢賢治の童話に登場する人物や題名は造語がほとんどだが、ユニークな森の名前は実名が使用されるほど印象的だったのだろうと考えられている。

釜淵の滝 釜淵の滝

花巻市では、「釜淵の滝」「五輪峠」「イギリス海岸」が指定されている。

「釜淵の滝」は高さ8.5m幅30mで、大きな炊飯釜を伏せたような岩の上を清流が落ちていく様子は圧巻だ。『台川』にもその様子が描かれており、今でも人気を集める景勝地として知られている。農学校の教師をしていた宮沢賢治は生徒を連れて、このあたりまで地形や岩石などを調べに来ていたといわれている。

五輪峠 五輪峠

遠野と江刺をつなぐ交通の要所であった「五輪峠」は、宮沢賢治が人生のうちに何度も越えたといわれている峠だ。峠には五輪の由来となった塔があり、宮沢賢治が『五輪峠』にも五つの塔の話を綴っている。

イギリス海岸 イギリス海岸(写真提供=花巻観光協会)

「イギリス海岸」は、瀬川と最上川が合流する付近に広がる風景だ。宮沢賢治は農学校教諭時代に生徒を連れてよく訪れていたという。実際は海岸ではなく、最上川西岸だが白い泥岩層が露出する様子がイギリスのドーバー海峡の海岸を思わせると、名前の由来を作品『イギリス海岸』の中で書いている。現在は、ダム整備により水位が下がらず、泥岩層を見ることが難しくなっているが、宮沢賢治の命日である毎年9月21日には、関係各所が協力して、水位を下げる試みを行っている。

種山ヶ原 種山ヶ原

「種山ヶ原」は、岩手県奥州市、気仙郡住田町、遠野市にまたがる物見山(種山)を頂点とした高原地帯だ。標高は600~870m、北上高地の南西部の東西11km、南北2kmにおよぶ平原状の山で、別名「種山高原」とも呼ばれている。宮沢賢治が愛した高原として知られ、種山ヶ原の風景や気象を題材に、童話『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『種山ヶ原』などを残している。

岩手県のダイナミックな自然からインスピレーションを受けてさまざまな名作を生み出した宮沢賢治。彼が愛した風景を探しに、物語の不思議な空気を感じに、岩手県に点在するイーハトーブの風景地を旅してみるのもいいだろう。宮沢賢治の物語や詩の世界をもっと深く、知ることができるのではないだろうか。

写真・協力=岩手県観光協会 文=磯崎比呂美
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