ドイツにはかつて2万を超えるお城が存在していたと言われています。しかし、その内40%は戦争などによって破壊され城址となっており、40%は廃墟の状態、良い状態で残っているのはたった20%だそうです。
今回はドイツに現存するお城の中で最も美しいとの呼び声が高いノイシュヴァンシュタイン城をご紹介します。
ノイシュヴァンシュタイン城はカリフォルニア州アナハイムにあるディズニーランドの「眠れる森の美女の城」のモデルとなったと言われています。確かに比較してみると尖塔のデザインがよく似ています。 ちなみに東京ディズニーランドのシンデレラ城はヨーロッパの複数のお城をモデルにデザインされたそうです。
ノイシュヴァンシュタイン城は1869年にバイエルン王国の第4代国王ルートヴィヒ2世の命で着工されました。ドイツのほとんどのお城は中世に建てられていますが、ノイシュヴァンシュタイン城が建てられたのは今から150年前ですので、歴史的にはそこまで古くないのです。
ルートヴィヒ2世は幼い頃から神話や伝説、中世ヨーロッパの物語を好んでおり、中でも特にワーグナーのオペラに感銘を受けたといわれています。失敗に終わったドイツ三月革命に参加していたためドイツを追われ、近隣国で貧しい亡命生活をしていたワーグナーをわざわざバイエルンに呼び寄せ、借金を肩代わりし、家を与えるなどの待遇をするほど敬愛していました。
そんなルートヴィヒ2世は、憧れている中世の世界を再現すべく、豪華な建築物を建て始めます。その一つがノイシュヴァンシュタイン城です。
自分の趣味のために湯水の如くお金を使い続けた結果、国の財政は悪化していきました。事態を重く見た家臣たちは、ルートヴィヒ2世を偽の精神鑑定にかけて精神病と認定し、統治不能として廃位させたと伝えられています。廃位させられた翌日、ルートヴィヒ2世は謎の死を遂げました。彼の死とともにノイシュヴァンシュタイン城の建設は中止され、未完成の状態で現在に至ります。
お城はドイツ語で「Burg(ブルク)」と「Schloss(シュロス)」という2つの単語があります。もともとお城というのは敵からの侵略や攻撃を防ぐための建物でした。ブルクはこれらの防衛目的のお城のことを指します。
対して16世紀頃から建てられた王族が居住するために華美な装飾を施した建物がシュロスです。ノイシュヴァンシュタイン城は後者。ドイツ語ではSchloss Neuschwansteinと言います。
前述の通り、ノイシュヴァンシュタイン城は19世紀にルートヴィヒ2世の中世趣味を具現化するために建設されたお城です。中世の城のような頑丈な石造りではなく鉄骨コンクリート製で、防衛はもちろん、居住するにも向いていない構造だと言われています。建築家や技術者ではなく、劇場の舞台装置や美術を手掛けていた画家にデザインを頼んだことからも、お城としての機能性よりも、見た目をとことん追求したことが分かります。
ノイシュヴァンシュタイン城の内部は30分のツアーでのみ見学ができます。日本語のオーディオガイドがありますので、チケット購入時にリクエストしてください。 見学できるのは4階と5階のみ。というのも、他の階は未完成のままだからです。 4階ではワーグナーの世界を再現した「控えの間」や城内で最も豪華と言われる「王座の間」、人工の鍾乳洞などを見学できます。
5階では祝賀会場として造られた「歌人の間」が必見です。ルートヴィヒ2世がもっともこだわった部屋だと言われていますが、一度も使うことなく亡くなってしまいました。内部の撮影は一切禁止なのですが、歌人の間へ向かう通路の窓から外の風景を撮るのは許可されています。
ツアー終了後、3階のショップとカフェでおみやげ探しと休憩をするのもいいでしょう。
チケットセンターからノイシュヴァンシュタイン城までは木々が生い茂った山道を歩くので、なかなかうまくお城を撮影することができません。お城をきれいに撮影したい場合は、マリエン橋がおすすめです。マリエン橋はお城の記念撮影の超定番スポットです。ホーエンシュヴァンガウの田園風景をバックにお城を撮影することができます。ただし、人気のスポットですので、ピーク時には混雑することもあります。ご注意ください。
ノイシュヴァンシュタイン城へは、ツアーをつかえば比較的手軽に行くことができますが、ゆっくりと自分のペースで観光したいときは、公共交通機関を使ってノイシュヴァンシュタイン城に向かいましょう。もっとも一般的なのは、電車でフュッセンまで行き、そこからバスでノイシュヴァンシュタイン城のふもとの町ホーエンシュヴァンガウまで向かう方法です。フュッセンからホーエンシュヴァンガウまではバスで約10分ほどです。
ホーエンシュヴァンガウからノイシュヴァンシュタイン城までは、
①徒歩で山道を登る
②シャトルバスを使う
③馬車を使う
の3パターンがあります。気分や体力に応じてお選びください。
ロマンチック街道はヴュルツブルクからフュッセンまでの約366kmの道。田園風景やアルプスの山々、牧場などの風光明媚な景色が続き、ドイツの自然、文化、歴史が楽しめます。
夏期はフランクフルトとフュッセンを結ぶヨーロッパバスが便利です。主な街で観光を兼ねた休憩が30分程度あり、1日で街道を巡ることができます。冬期はローカル線や路線バスを乗り継がなければならないので、かなり時間がかかります。
ルートヴィヒ2世の父、マクシミリアン2世が廃墟になっていたお城を購入し、ネオゴシック様式に改築したお城です。ルートヴィヒ2世も住んでいたと言われています。元々はシュヴァンシュタイン城という名前でした。「シュバン(Schwan)」とは白鳥のこと。お城の屋根の上の白鳥像が置かれています。ちなみに「ノイ(Neu)」とはドイツ語で「新しい」という意味です。つまり、ノイシュヴァンシュタイン城は「新シュヴァンシュタイン城」という意味なのです。ノイシュヴァンシュタイン城とセット入場券も販売されています。
緑と水に囲まれ、パステルカラーのかわいい建物が立ち並ぶフュッセン。ロマンチック街道の南端に位置しています。フュッセンでぜひ訪れていただきたいのは聖マンク修道院です。
8世紀から1802年まで修道院として使われてきたこの建物は、現在内部を市立博物館として公開しています。ここで有名なのが『死の舞踏』という絵画。さまざまな階級の人が骸骨と踊っている様子が描かれています。
ルートヴィヒ2世の理想と夢を具現化しようとしたノイシュヴァンシュタイン城。唯一無二のその美しさは、彼の病的なまでのこだわりを垣間見ることができます。もし、ルートヴィヒ2世が廃位を免れ、ノイシュヴァンシュタイン城が完成していたら、どのようなお城になっていたのでしょうか。
ルートヴィヒ2世や彼が愛したワーグナーについて、あらかじめ少し調べてからノイシュヴァンシュタイン城に訪れると、より楽しめると思います。