ロープウェイで千光寺山に登り、「文学のこみち」を散策したり、尾道本通り商店街で名物の尾道焼きを取材し、さて次はどうしようか...となった時、「向島に行きましょう」ということになった。何しろ、尾道のどこからでも見える島なのである。ここまで来て、訪ねないわけにはいかない。
幅約300mの尾道水道をはさんで目の前に浮かぶ向島は周囲約28km、文字通り尾道市街の向かい側にある。駅前渡船、福本渡船、尾道渡船というフェリー会社が3社あり、今回は尾道渡船を利用した。
フェリーとはいえ、一般的な長距離フェリーのような乗船手続きや切符の購入は不要。時刻表もなく、頻繁に行き来しているのでフェリーが来たら桟橋からそのまま乗り込み、料金は下船時に支払う仕組みだ。
まさに、島の人たちにとっての毎日の足代わりとなっている。
向島に到着した尾道渡船のフェリー。奥に尾道の町が見える
運航時間は6時から22時30分。かつては24時間220便も運航し、1日およそ13000人を運んでいたそうだが、昭和43年(1968)に尾道大橋が開通してからは利用客が減少した。それでも5分から10分おきに出航しているのだから、今も大切な存在だ。ちなみに、料金は大人100円、子供50円、自転車110円、自動車は4m未満が120円、4m以上が130円。
自転車や自動車と一緒に乗船すること約3分で、向島に到着する。まさにあっという間の超ミニクルーズだが、束の間でも潮風に吹かれて気持ちがいい。
桟橋にある『あした』の建物
向島の桟橋には、大林宣彦監督の「新・尾道三部作」のひとつ、『あした』 のロケで使われた「兼吉市営バス乗り場」の白い建物が移設されていた。
「ろ」の字がひときわ目立つ工場
また、近くには大きく「ろ」と書かれた看板の工場もある。なんともシンプルにして大胆なデザインの看板だ。 聞けばこれは、和船を漕ぐのに使う「艪」を作る作業場だという。中を見学したかったが、残念ながらすでに終業時間を過ぎていた。
素朴で静かなこの向島が、帰京後に受刑者による逃走劇の場になるとは思いもよらず、びっくり仰天したものである。