刺身ならば、ぷりぷりとした歯ごたえ、甘みとコクのある味を楽しむことができ、焼けば旨味がギュッと詰まった、ふっくらとやわらかい身を味わえる。真鯛は、赤みがかった美しい姿、そして何よりも美味であることから「魚の王様」「百魚の王」ともいわれ、古くからおめでたいときに欠かせない魚として知られている。愛媛県は養殖真鯛の生産量日本一で、50%以上のシェアを誇る。そんな愛媛県の郷土料理として知られるのが鯛めしだ。
松山鯛めし 写真提供=松山市
一口に鯛めしといっても、いくつかの種類があるのをご存じだろうか。鯛めしは主に、鯛をまるごと米と一緒に炊き込むタイプと白米に刺身をのせて食べるタイプの2つに分けられる。炊き込みタイプの「松山鯛めし」は、主に東・中予地方で食べられている。塩、醤油、昆布などで味付けし、鯛一尾と松山名物のニンジンやゴボウ、油揚げなどの具材をプラスした鯛めしは素材の旨味が溶け込んだしっかりとした味わい。最初はそのままの味を楽しみ、次は薬味をのせて、最後はだしやわさび、三つ葉、海苔などをのせてお茶漬けにすれば、真鯛のおいしさを存分に楽しむことができる。
北条鯛めし 写真提供=(一社)愛媛県観光物産協会
北条の郷土料理「北条鯛めし」も炊き込みタイプの鯛めしだ。これは、だし昆布だけを使用し、鯛をまるごと米と一緒に炊いたもの。シンプルかつ鯛のあじわいをダイレクトに楽しむことができる逸品だ。現在も北条では、「北条鯛めし」が食べられる店が点在しているので、ぜひ、北条に立ち寄ってみるといいだろう。
北条鹿島 写真提供=松山市
「北条鯛めし」のルーツは諸説あるが、2世紀、三韓征伐に出陣した神功皇后が、北条鹿島にある鹿島明神に勝利祈願をし、地元の漁民たちが近海で漁獲した新鮮な鯛を献上したことに由来するという説がある。さらに漁民たちは鯛をのせて飯を炊き差し上げたところ、神功皇后は大変喜び、そのおいしさをほめ讃えたという。
宇和島鯛めし 写真提供=(一社)愛媛県観光物産協会
南予地方で食べられている「宇和島鯛めし」は、新鮮な真鯛の刺身を醤油、みりん、玉子、ごま、だし汁などで調味した特製のタレにからめ、薬味といっしょに熱々のご飯の上にかけて食べる漁師めし。ぷりぷりとした新鮮な真鯛の旨味はもちろんのこと、甘辛い特製のタレ、玉子のまろやかさもプラスされて、いくらでも食べられてしまうおいしさだ。
宇和島漁港 写真提供=宇和島市
「宇和島鯛めし」の始まりは、宇和海にある日振島(ひぶりじま)を根拠地にしていた伊予水軍のまかない飯だといわれている。酒盛りをしていた船員たちが、酒が残った茶碗にご飯をつぎ、醤油と刺身を混ぜ合わせて食べたというのだ。火を使うことのできない船上で、刺身をご飯の上にのせて豪快に食べたという鯛めしは一番のごちそうだったに違いない。
異なる3種類の鯛めしが楽しめるのは、新鮮で上質な真鯛が手に入る愛媛ならでは。最近は、何種類もの鯛めしを楽しむ観光客も増えているのだとか。真鯛の産地、愛媛で、ぜひ絶品鯛めし体験めぐりを。お店によって、味つけやこだわりも異なるので、さまざまな味わいを楽しんでみたい。