大井川鐵道井川線「南アルプスあぷとライン」
大井川鐵道井川線「南アルプスあぷとライン」

紅葉を楽しむ大井川鐵道

季節を感じる日本の旅
2024年10月15日
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国内旅行
旅行記

紅葉に彩られた山の斜面を縫うように進んでいく。ギーギーと音を立てながらゆっくりと走る小さな車両はレトロ感があり、また、車掌が見どころを紹介してくれる車内放送の声も心地よい。これは千頭駅から井川駅までを結ぶ大井川鐵道井川線。「南アルプスあぷとライン」の名で親しまれている日本唯一のアプト式列車だ。アプト式とは急勾配を登るための鉄道システムの一つ。アプト式電気機関車についている坂道専用の歯車「ピニオンギア」と線路の中央に設置された歯形レール「ラックレール」を噛み合わせることで、急な坂道でも安全に上り下りすることができる。

アプトいちしろ駅 アプトいちしろ駅

大井川鐵道井川線車内 大井川鐵道井川線車内

大井川鐵道井川線は、昭和10年(1935年)水力発電所建設の資材運搬用トロッコとして建設された。当時は、大井川専用軌道千頭駅から大井川発電所駅(現在廃止)までを運行する大井川電力の専用鉄道だった。旅客営業が始まったのは、昭和34年(1959年)になってからのことだ。そのためカーブが多く、トンネルも小さく、それに合わせた小型の車両が使用されている。

連結の様子 連結の様子

アプト式で走るのは、日本一の急勾配を誇るアプトいちしろ駅から長島ダム駅までの区間だ。この坂を走るために両駅では列車にアプト式電気機関車を連結、切り離し作業が行われる。作業の様子は列車から降りて見ることもでき、これが「南アルプスあぷとライン」の見どころの一つにもなっている。

奥大井湖上駅とレインボーブリッジ 奥大井湖上駅とレインボーブリッジ

井川線の見どころはまだまだ続く。長島ダムは洪水調節、不特定利水、灌漑、上水道供給を目的とした大井川水系唯一の多目的ダムで、また、大井川本川では唯一水力発電を行わないダムでもある。昭和47年(1972年)に着手され、平成14年(2002年)に完成した。運が良ければ迫力満点の放水も見ることができるだろう。
長島ダムの建設に伴い、大井川がせき止められて誕生したのが接岨(せっそ)湖だ。奥大井湖上駅は、レインボーブリッジの途中、湖に突き出た半島状の山の突端に位置する駅。湖を渡り対岸の展望台まで20分ほど歩くと、奥大井湖上駅を一望できる。まるで駅が浮かんでいるような、不思議な風景に驚きの声が上がる。

「関の沢橋梁」 「関の沢橋梁」

クライマックスとなるのは、尾盛駅を出発しトンネルを3つ抜けると現れる鉄道橋「関の沢橋梁」だ。川の底から70.8mという高さは何と日本一。「窓の外をご覧ください」とのアナウンスがあるが、やはり怖い。勇気を出して窓の外を覗き込むと谷の底に小さく関の沢川が流れているのが見えた。橋の上を通る際、列車はゆっくりと進み、時には観光停車してくれることもあり、日本一の高さを存分に楽しむことができる。

「夢の吊り橋」 「夢の吊り橋」

紅葉の時期、時間に余裕があれば立ち寄りたいのが寸又峡の「夢の吊り橋」だ。奥泉駅で下車し、路線バスで約30分。寸又峡温泉入口バス停で下車して、40分ほど歩くとたどりつく。まず驚かされるのが、色を付けたかのように見える青い水の色だ。微粒子やプランクトンが少ない、川の底まできれいな水が流れる寸又川の水は、波長の短い青い光だけが反射され、波長の長い赤い光が吸収されるという「チンダル現象」が起こるのだという。
鮮やかな青と赤、黄色、緑のコントラスト。その名のとおり夢のような世界が広がる寸又峡。平成26年(2014年)、この一帯は「南アルプスユネスコエコパーク」に認定された。

手つかずの自然の中を、ダムや人造湖、鉄橋や駅など、人の手によって作られた建造物などに立ち寄りながら進む大井川鐵道井川線。毎年紅葉の時期は、11月中旬。この時期は特に人気があり、多くの人で賑わいを見せる。

協力・写真=大井川鐵道 文=磯崎比呂美
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