トラベル&ライフ2024年8-9月号の撮影で訪れたカリフォルニア。太平洋側から内陸へと進んでいくと、徐々に空気は乾燥し、砂漠の景色が広がり始める。ロードトリップだからこそ見られる、移り変わる風景。本誌で掲載しきれなかったその美しい景色を写真とエッセイで紹介していく。
ロサンゼルスからパームスプリングスへ向かう途中、ふと車窓の外を見ると、とてつもなく長い貨物列車が並走してきた。貨車に2段重ねのコンテナは、数十車両はあっただろうか。北米大陸を横断する大切な流通手段なのだが、踏切でつかまったら最後、通り過ぎるまでしばらく眺めているしかなさそうだ。
国立公園に立つジョシュア・ツリーたち。真っ直ぐ天に向かって育つものもあれば、四方八方に枝葉を伸ばす面白い形のものもある。気候の変化など、ストレスが多いほど枝葉が分かれて育つのだそう。「ストレスフリーの私はあの木みたい」「僕の人生はこんな形の木かも」人間模様を照らし合わせながら見ていると、なんだか愛着が湧いてくる。
砂漠でブルーベリーに似た淡いブルーの実のようなものを見かけた。清涼感のあるウッディな匂いで、どこか馴染みのある香り。ジュニパーベリーと言われ、ネイティブアメリカンが薬として使っていたらしく、今はお酒の「ジン」の香料に使われているらしい。思いがけずジンの香りを嗅げて嬉しい驚きだった。
砂漠地帯にできたリゾート地、パームスプリングスに佇むマリリン・モンロー像。彼女はこの地で「発掘」され、1950年代にトップスターへと駆け上がっていった。当時は、まさか高さ8mの自分の彫像が立つとは思っていなかっただろう。没後60年以上たった今も、彼女は砂漠の風を気持ちよさそうに受けていた。
岩山にポツンと立つ一軒家。車を走らせていると、荒野にチラホラ住宅が点在しているのが見えた。「水や電気を引くのが大変そう」など、余計な心配をしてしまうが、アメリカでは乾いた空気は結核に良いとされていて、砂漠地帯に引っ越す人もいるのだとか。「ところ変われば」である。
カリフォルニアの真っ青な空に、羽毛のような白い花が眩しく咲いていた。ノリナ・パリーと言われるこの植物は、標高の高い砂漠地帯に咲き、高さも2m以上にもなる。ネイティブアメリカンは若い茎を食べ、葉を編んで籠を作っていたとか。乾いた土地でも育つ強い植物は、貴重な食べ物や生活品になっていたのだ。
まだ明るいが、時計は夜20時を指していた。見かけた公園には、さすがに遊んでいる子どもはいないけれど、寂しさを感じないのは遊具に書かれた落書きのせいかもしれない。我こそはと主張のある絵がたくさん描かれ、砂漠の日差しに負けないパワーが溢れていた。
突如風車の大群が現れた。街から少し車を走らせるだけで、この景色が見られるのはカリフォルニアならでは。このエリアは、砂漠の暖かい空気と海からの冷たい空気が行き交い、一年を通して強風が吹いている。静かな光景に見えるが、窓を開けると「ゴー」という風音が聞こえてきた。自然の力を使ったダイナミックな景色だ。
貨物列車も風車も、荒野に点在する家も、空の旅では決して出会えなかった。車窓から流れてくる景色に夢中になれるほど、カリフォルニアは広い。風景が変わるたびに窓を開け、新しい空気を車に入れ込む。砂漠には砂漠の、街には街の匂いが流れていた。ロードトリップで五感を刺激するカリフォルニアの旅だった。
カメラと旅するカリフォルニア(街中編)と一緒にお楽しみください。