アイルランド北西部の地方都市、スライゴーから車でおよそ10分北に進むとフォトジェニックな山々が見えてきます。そのなかでも、知る人ぞ知る名所がデビルス・チムニーの滝です。観光客は近くのグレンカー滝の方に行ってしまうせいか、デビルス・チムニー滝の方はそれほど混んでおらず、隠れた名所と呼ぶにふさわしいでしょう。
今回は、デビルス・チムニーの滝の魅力をたっぷりご紹介します。
デビルス・チムニーは、アイルランドで最も高い滝として知られており、高さは150mにも及びます。日本の滝と比べても、比較的高い部類に入ることでしょう。スライゴーの山岳地帯に位置するDartry Mountainsから真っすぐ降下する姿が美しい、直線河道の滝です。
デビルス・チムニーの正式名称はSruth in Aghaidh an Aird。アイルランド語で「高さに逆らう流れ」を意味するそうで、これは実際の現象をもとに名づけられたそうです。特定の気象条件の元で南側から強い風が吹き続けると滝が下から吹き上げられ、崖の上に煙突の煙のようにしぶきをあげる様子が、まるで悪魔の所業のようにも見えることからデビルス・チムニーの別名がつけられたそうです。
今回は、残念ながらその現象に遭遇できませんでしたが、そのようなおどろおどろしい名前からは想像もつかないような、静かで美しい滝を楽しめました。
デビルス・チムニーへ続く道は整っており、細かい砂利が敷き詰められているので、とても歩きやすかったです。広葉樹林が植林されている明るい森を通り抜けると、森の良い香りに包まれて足取りが弾みました。
少し急な階段もありましたが、それほど長くは続かなかったので、息切れすることなく登りきることができました。塀の向こうには、素晴らしい邸宅と広大な敷地が見えます。ぱっと見た感じでは、10エーカーはありそうでしたが、きちんとお手入れされています。この森で伐採されたと思われる広葉樹林が庭に置いてありました。
調べたところ、どうやらこの邸宅にお住まいの方がデビルス・チムニーまで続く道や森を所有しており、牧草地に植林して森や道を作り一般公開してくれているようです。アイルランドでは、このような事は非常に稀で、たいていは荒地のまま耕作放棄地になるか、牧草地になってしまうかのどちらかです。もし、この方たちの日々の努力がなかったら、私たちがあの滝の素晴らしい景色を見ることがないかも知れないと思うと、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
駐車場から5分ほど歩くと、見晴らしの良い開けた草原に出ました。この山が真っ二つに割れたような地形が、何とも興味をそそります。今回は、地理のことまで調べる余裕はありませんでしたが、今度時間があったら地元の図書館などに立ち寄って調べたくなりました。
さらに10分ぐらい歩き続けて右側の小高い丘に登ると、この滝の荘厳さが伝わるような写真が撮れました。滝の険しい表情とは対照的な、広葉樹林の雑木林ならではの、もこもことした感じが好きです。人の手がある程度入っているはずなのですが、まるで昔話に出てくる古代森を見ているかのような気分になりました。
さらに滝に向かって進むと、川の上流の景色が見えてきました。ごつごつとした大きめの岩に苔が生える様子が何とも神秘的な感じです。アイルランドもかつては自然を敬う習慣があったと言い伝えられていますが、この山もひょっとしたら、人々から恐れ敬われていたのかも知れません。
今にも崩れそうな地層がむき出しになっています。これを見たときに、少し怖くなりました。しかし、良く見ると木の根が張っているおかげで、ある程度は耐久性がありそうです。
やっと滝の目の前まで辿り着きました。駐車場から25分ぐらいで着いたのでとても楽でした。ただ、最近雨があまり降らなかったせいか、水量が少なくダイナミックな滝を見られなかったのは残念です。写真を拡大すれば分かると思いますが、まるで白糸のように滝の筋が繊細に見えるので、これはこれで、とても美しいです。
帰り道を少し迂回して針葉樹林を抜けると、また見晴らしの良い小高い丘に出ました。ここからの景色が一番感動的でした。本当に感無量で言葉が出ないとはこのことです。もし、スライゴーを訪れる機会があれば、この場所で、ぜひ風が山を吹き抜ける音を聴いていただきたいです。
山の至る所に、羊が放牧されています。スライゴーの場合ほとんどが野生化していると言われていますが、まったく危害は加えてきません。むしろ、崖から落ちないかこちらが心配するほどです。
帰り道、うさぎの置物があることに気づきました。この後5歳ぐらいの子供たちを連れた親御さんとすれ違いましたが、子供たちが喜びそうですね。
このサインと傷つけられた木に遭遇したとき、とてもショックでした。人間のエゴや無知は、木にとってはいい迷惑なんですよね。この木を大切に苗から育ててきた所有者の気持ちを考えると、心苦しいです。
Devil's Chimney
住所: Unnamed Road, Tormore, Co. Sligo
デビルス・チムニーの登り口には、車が5台ほど駐車できるスペースがあります。朝からお昼にかけてはそれほど混んでいませんでした。また、車で約2分のところにあるGlencar lakeの駐車場には、お手洗いがあるので便利です。
この記事では、アイルランド・スライゴー県にあるデビルス・チムニーの滝をご紹介しました。ダイナミックな滝が見たい!という方には、雨上がりの晴れた日に登ることをおすすめします。