広大かつ静かな空間に59本もの太い柱がそびえ立つ。まるで神殿のような趣があるこの場所は、なんと埼玉県春日部市に位置する世界最大級の地下放水路。地下神殿とも呼ばれる首都圏外郭放水路である。
トンネル 写真提供:国土交通省江戸川河川事務所
首都圏外郭放水路が完成したのは平成18年(2006年)のことだ。かつて春日部市の中川、倉松川、大落古利根川流域は水が溜まりやすい皿のような地形で、しばしば浸水災害に遭っていた。また、都市化により地面に雨がしみこみにくく、さらに溜まりやすくなったことから被害は拡大。そこで、流域全体が水害に強い街づくりを目指して首都圏外郭放水路の計画を開始し、平成5年(1993年)着工、平成14年(2002年)に部分開通。すべてが完成するまでには13年もの年月がかかった。
第1立坑 写真提供:国土交通省江戸川河川事務所
首都圏外郭放水路の全長は約6.3km。春日部市の上金崎から小渕の国道16号線沿い地下50mにある。「流入施設」「立坑」「トンネル」「調圧水槽」「排水機場」などで構成され、この地域で洪水の危険が迫ると「流入施設」と5つあるうちの4つの「立坑」から各河川の溢れそうな水を取り入れて地下河川の「トンネル」に流し、いっぱいになってしまったら「調圧水槽」へ貯める。そこでも規定レベルまで水かさが増してしまった場合は、「排水機場」から江戸川へと排出するという仕組みになっている。全施設合わせると貯水量は約67万m³。何と「サンシャイン60」相当の水を貯められるというのだから驚きだ。
調圧水槽 写真提供:国土交通省江戸川河川事務所
地下神殿と呼ばれるのは「調圧水槽」の部分。「排水機場」から最も近い「第一立坑」の上部に連結する地下22mの位置にあり、長さ177m、幅78m、高さ18m。水のくみ上げと排水をポンプで運転し、ポンプを停止させたときに起こる逆流の調節も行う。大きな柱は1つ奥行7m、幅2m、高さ18m、重さ約500tという巨大なもの。地下水の揚圧力により調圧水槽が浮くのを防ぐために、柱だけでなく天井や底の重さで支えている。
見学会の様子 写真提供:国土交通省江戸川河川事務所
首都圏外郭放水路ではその壮大さを体感できる見学会を実施している。人気の「調圧水槽」をはじめ、これまで非公開だった「立坑」の作業用通路、排水ポンプの仕組みや機能などを公開。コースは4コースあり、完全予約制となっている。世界最高峰の技術により生み出された施設の壮大さ、無駄のない美しさ、厳かな雰囲気を堪能したい。
調圧水槽から見た第1立坑 写真提供:国土交通省江戸川河川事務所
首都圏外郭放水路は部分開通から令和5年9月までに143回の貯留を行い、80回江戸川へ排水を行った。また、浸水被害軽減効果は完全開通から令和元年までの約12年間で1271億円、部分開通から令和元年までの約18年間の浸水被害軽減効果はなんと1484億円。美しい地下神殿は人々の暮らしを守る大きな役割を果たしている。