平成18年(2006年)から続く「B-1グランプリ」は、ご当地グルメで町おこしに取り組む国民的イベントに成長している。そんな「B-1グランプリ」で、第1回、2回大会でゴールドグランプリを獲得し、早くから注目されてきたのが富士宮やきそばだ。
むし麺と肉カス、だし粉 写真提供:富士宮やきそば学会
静岡県富士宮市のご当地グルメである富士宮やきそばの特徴は、麺。一口食べるとそのコシの強さ、一般的な焼きそばの麺との違いに驚くだろう。具は、豚肉からラードを絞り出した残り部分を油で揚げた肉カス(油かす)やキャベツなど入っているのが一般的。店や家庭によっては魚介類やひき肉、駿河湾名物のサクラエビなどさまざまな味わいが楽しめる。完成後には粉末状になったイワシ(サバなどブレンドしていることも)の削り節であるだし粉をかけて食べるのだが、これがとにかくおいしい。深い旨味が絡まって、お腹いっぱい食べても、また食べたいと思わせる逸品なのだ。
強火で焼き上げる 写真提供:富士宮やきそば学会
焼きそばはお祭りの屋台では定番メニューだったが、家庭用の焼きそばが売られるようになったのは1970年代半ばのことだ。けれども富士宮では戦後間もなくの頃から独自の焼きそば文化が発展していたという。きっかけとなったのは、現在も人気の製麺会社「マルモ食品工業」の望月晟敏氏によるインドネシアの戦地で食べた台湾ビーフンの味の再現だった。そして、観光で訪れた人たちが持ち帰ることができるように、また販売エリアを広げるために、日持ちのする麺を開発。一般的な焼きそば麺は一度蒸した後に茹でるが、焼きそば麺を蒸した後、茹でずに急速に冷やしてから油で表面をコーティングしたことによって、日持ちがするだけでなく、独特のコシのある麺が誕生した。当時ソースには、さっぱりとした味わいのウスター系ソースを使用していたという。
富士宮やきそばアンテナショップ 写真提供:静岡県観光協会
製糸工業が盛んだった富士宮市では、古くから手軽に食べられる焼きそばやお好み焼きの店が数多く点在していた。現在も、市内の70以上もの店で富士宮やきそばを提供。富士宮市内にある「マルモ食品工業」「叶屋」「曽我めん」「さのめん」という4つの製麺業者の蒸し麺を使用しながら、独自の味わいを生み出している。
だし粉をたっぷりとふりかけ紅ショウガを添えて 写真提供:静岡県観光協会
平成23年(2011年)には世界進出を果たし、香港・ニューヨーク・シアトル・ローマ・タイに富士宮やきそばの店をオープン。B級グルメ=ジャパニーズソウルフードとして「焼きそば」を世界的にPRした。令和4年には文化庁で公募された「100年フード宣言」に応募し、「未来の100年フード部門~目指せ、100年!~」部門に認定。令和5年9月に、ニューヨーク・マンハッタンで行われている世界最大の日本食イベント「JAPAN Fes」の特別イベント「コナモンコンテスト」で優勝、同年11月には4年ぶりに開催された「B−1グランプリin 四日市」でシルバーグランプリを受賞した。
長きにわたって地元の人たちのお腹を満たしてきた富士宮やきそば。そのおいしさは、世界に広まり始めている。
「コナモンコンテスト」で優勝 写真提供:富士宮やきそば学会