トラベル&ライフ2024年2-3月号の撮影で訪れたオーストリアとハンガリー。どこを切り撮っても魅力的な中欧の風景が広がっていた。ここでは、本誌で掲載しきれなかったその美しい景色を、写真とエッセイで紹介していく。
オーストリア・ハンガリーの2カ国を巡る旅の初日、最初に訪れたベルヴェデーレ宮殿の庭園を歩いていると、綺麗なダブルレインボーが現れた。「いい旅になりそう!」はじめて足を踏み入れる国から歓迎された気分になり、長時間フライトの疲れも時差ボケも吹き飛んでしまった。
「まるで宮殿や美術館!」思わず心の中で叫んでしまった。ウィーンに来たからには、本場の"ウィンナーコーヒー"を飲もうと、老舗カフェ「ゲルストナー」にやってきたものの、天井を埋め尽くす絵画や豪華なシャンデリアが彩る内装に驚き、視線がメニューまでなかなか辿り着かない。注文するまでだいぶ時間がかかってしまった。
ウィーンで欠かせない存在の二頭立て馬車「フィアカー」。街中をパッカパッカとリズミカルに走っている。1800年代後半には1000頭以上のフィアカーが走っていたとか。今でも、特に石畳の続くシュテファン大聖堂の周りでは多くのフィアカーが行き交い、心地良い足音を響かせていた。
ウィーン郊外にある、ベートーヴェンが住んでいた街・ハイリゲンシュタット。市街から市電で20分ほどのところにあり、森が近く緑の木々に囲まれる風情ある街並みだ。そこで目を引いたのは石で作られた案内図。壁と一体化しているが存在感がある。美しい景観を大切にするウィーンの人たちの美的意識を感じるものだった。
広大な敷地に立つシェーンブルン宮殿。大きな庭園を通り抜け、宮殿から30分ほどかけて敷地の一番高い丘までやってきた。息を切らしながら振り返ると、建物全体とウィーンの街並みが見えた。なかなかの坂道だったが、この景色を見ると来た甲斐がある。ここを離れることを少し寂しく思った。明日はハンガリーへ出発だ。
ウィーンからブダペストに向かう途中、中間地点にあるジェールという街に立ち寄った。旧市街の道のほとんどが歩行者専用で、カラフルな建物が並ぶ可愛らしい街。印象的なのは、軒先の看板。店名などは載っておらず、デザイン自体がお店の特徴を表している。言葉が分からなくても、なんのお店か想像しながら散策するのも楽しみのひとつだ。
ブダペスト市内は、路面電車が行き交っていた。低床の市電で街中を縦横無尽に走り、目的地までいけるからありがたい。もともとは馬が線路の上を走って車両をひく「馬車鉄道」だった。路面電車の発展により置き換えられてしまったが、そんな昔を想像しながら、電車に揺られて街の景色を見るのは感慨深かった。
ブダペストのランドマーク的存在のマーチャーシュ教会。中に入ると、ステンドグラスから差し込む光で満たされていた。タイルでカラフルに装飾された外観とはガラッと変わり、荘厳な雰囲気が漂っていた。「神々しい...」柔らかくあたたかい光に包まれながら、思わず口からこぼれた。
市電に乗って中心地から少し離れて郊外にでた。路地を歩くと、庭付きの家には洗濯物が干され、小川近くでは子供が遊び、犬の散歩をしている人もいた。観光地とは違った、地元の人たちの生活を垣間見ると旅に一層深みがでる。冬でもあまり寒々しく見えないのは人の営みを感じるからかもしれない。
街並みの美しさから、「東欧のパリ」とも呼ばれるハンガリーの古都ブダペスト。ドナウ川にかかるセーチェニー鎖橋は夜も綺麗にライトアップされていた。訪れた時は独立記念日(革命記念日)の週で、いつもは白にライトアップされる橋も、この時は、ハンガリーの国旗色にライトアップされていた。特別な光の夜景に見惚れてしばし佇んでいた。2カ国の旅を終えるハイライトの景色だった。
ハンガリーの取材こぼれ話もご一緒にお楽しみください。