トラベル&ライフ2024年2-3月号の巻頭特集「華麗なる中欧2都を巡る ウィーン・ブダペスト」では、中欧でも人気の高い2都市の見どころを中心に取り上げた。ここでは、本誌では掲載しきれなかったハンガリーの首都・ブタペストから日帰りでも観光できる個性豊かな街を紹介しよう。
ペスト終焉を記念した碑が立つ中央広場
まずは、芸術の街としても知られるセンテンドレ。ブダペストの北、約19kmに位置し、列車なら約1時間の距離にある。街の中心にある中央広場はカラフルな建物に囲まれ、華やかな雰囲気が漂う。広場の中央にはペスト終焉を記念して建てられた塔が立っている。
細い路地や石畳の小道が伸びて白壁の家々が立ち並ぶ一角もあり、どことなく地中海を思わせる。この地は14世紀にセルビア人やギリシャ人たちが入植したため、街づくりのベースに当時の彼らの文化が今も残されているのだ。
民芸品や陶器など雑貨やワイン、洋服などを販売する店が軒を連ね、ハンガリーの名産のパプリカパウダーをはじめ、伝統工芸のカロチャ刺繍、ハンドペイントの陶器、民族衣装を着た人形など、思わず手にとってみたくなるものが数多く、とっておきの掘り出しものを探しながら歩くのも楽しい。
もうひとつがショプロン。オーストリアと国境を接し、ブダペストからは約185km、鉄道を利用すると最短なら約2時間30分で到着する。ちなみに、ウィーンからは約60kmなので、ウィーンを拠点にして足を延ばすこともできる。
ショプロンは茶色の屋根瓦を乗せた家々が続く、美しい街として知られている。かつてオスマン帝国の攻撃を免れた数少ない街のひとつであり、ゴシック様式やバロック様式の建物が連なり、中世の面影を今も残す街並みは大きな見どころだ。
市街地の中心には三位一体の像が立ち、その南側にある「山羊の教会」も見逃せない。ハンガリーのゴシック建築を代表するベネディクト会の教会で、ユニークなその名前は、13世紀後半に山羊飼いが、山羊が掘り当てた埋蔵金を教会の建築費用に寄付したことから名づけられたという。
もうひとつ、この街には興味深い逸話がある。ハンガリーとオーストリアの国境に位置するこの街は、第一次世界大戦後、どちらの国に所属するかを決める住民投票が行われた。その結果、7割以上がハンガリーに属することを選んだそうで、以来、"もっとも忠実な街"と呼ばれるようになった。
郷土料理のひとつ、グヤーシュ(左上)
旅に欠かせないのがその土地ならではの名物料理。国民的な料理として親しまれている「グヤーシュ」は、牛肉と野菜をパプリカパウダーで煮込んだスープ。真っ赤な色は一見辛そうだが、辛みはなく旨味がたっぷり。
このほか、トリュフ、キャビアと並んで世界三大珍味に数えられているフォアグラのほかに、糖度の高いブドウを原料に造られた甘口の白ワイン「貴腐ワイン」も名物だ。
特に有名なのは、首都・ブダペストの北東部のトカイ地方で造られるトカイワイン。2つの川が合流するトカイ地方は、秋の昼夜の寒暖差が大きなことから霧が発生しやすい特性を持ち、その湿気が収穫前のブドウに貴腐菌を付きやすくしている。こうした地形と気象の特性が上質の貴腐ワインを生み出している。
また、ワイン醸造の歴史が古く、その伝統的な製法や丘陵地帯に広がるブドウ畑などが文化的な価値が認められて、「トカイ・ワイン産地の歴史的文化的景観」として世界文化遺産に登録されている。
食事の締めくくりに欠かせないデザートには、チョコレートやフルーツを挟んだハンガリー版クレープの「パラチンタ」もおすすめ。写真のようにチョコレートソースをかけたものは「グンデルパラチンタ」と呼ばれ、ブダペストにある高級レストラン「グンデル」のシェフが考案したもの。今では、「グンデル」以外の店でも広く味わえる。
個性豊かな街歩きと郷土料理をセットで楽しめば、旅はより一層思い出深いものになる。