おせち料理は、新年に幸せが多く訪れるようにと思いを込めていただく、日本の伝統的な料理だ。昆布巻きのこぶは「よろこぶ」、鯛は「めでたい」、八つ頭は「頭となって出世するように」など、語呂合わせや験を担いだ料理が多いのが特徴。黒豆もその一つで、「真っ黒になるまでマメに、勤勉に健康に暮らせるように」という願いが込められている。また、黒豆の黒い色は邪気を払うことから、魔除けの意味もあっておせち料理に取り入れられたともいわれている。
「丹波黒」の煮豆
そもそも黒豆は大豆の一種で黒大豆が正式名称だ。黒大豆のブランドとしてよく知られているのが兵庫県丹波篠山市で作られる「丹波黒」だ。一般の大豆が100粒当たり30g程度であるのに対し、「丹波黒」の重さは80~90g。煮豆にすると皮が破れにくく、漆黒のつやと濃厚な甘み、そしてもちもちとした食感が特徴だ。
刈り取った黒大豆を畑で乾燥させる「島立て」
丹波篠山地域の黒大豆の歴史は古く、江戸時代には栽培が行われていたとされている。江戸時代中期には丹波篠山市川北地区で栽培する「川北黒大豆」が江戸幕府へ献上され、そのおいしさが江戸中に広まったという。江戸末期から明治初期には、篠山藩の命により同市日置地区の大庄屋が優良な黒大豆を選抜した種を配布し「波部黒」として栽培を推奨。その後、「波部黒」が宮内省御用達品となるなど、さらなる注目を集めるようになった。
昭和9年(1934年)には、「川北黒大豆」と「波部黒」を統一して「丹波黒大豆」と命名し、昭和16年(1941年)になると兵庫県農事試験場が「丹波黒大豆」の品種特性試験を実施し、「丹波黒」と命名して奨励品種に指定した。
黒豆の収穫の様子
「丹波黒」の価格は通常の黒豆の約3倍ととても高価なものだ。100g500円を超える、黒豆きっての高級品といわれるが、その理由は品質の良さはいうまでもなく、その栽培にかかる多くの手間が関係している。
丹波篠山地方は、昼夜の寒暖差、適度な雨量、粘土質の黒土など黒大豆を栽培するには恵まれた地である。けれども、土壌水分割合の調整が難しい土地柄だったため独自の栽培方法を確立してきた。その結果、高品質な「丹波黒」となったが、枝は大きく広がり、夏場の土寄せや水やりなど作業も多く、さらに収穫や乾燥にも手間がかかり、大豆の中では最も栽培しにくいといわれている。また、ほとんどが手作業で行われるため、生産者の間では「苦労豆」と呼ばれるほどだ。
乾燥させている「丹波黒」
また、栽培期間が長く一般的な黒豆が70日なのに対し、「丹波黒」は約100日。時間をかけて成熟させるため、栄養価が高くおいしい大粒の豆が収穫できるという。さらに、一般的な黒豆より収穫量が少ない。丁寧に時間をかけて栽培された「丹波黒」は、他にはないおいしさと美しさを誇る、希少価値の高い高級品となっている。
黒豆の成分を発色剤に使用した「黒豆硝子」
現在、兵庫県下における「丹波黒」の栽培面積は約1,258ha、生産量は1,059t(令和2年度)で、全国シェアナンバー1。兵庫県の栽培面積の約46%は丹波篠山市だ。「苦労豆」といいながらも、そのおいしさと美しさを誇りに生産者の方々は栽培を続けているのだろう。
年の初め、健やかな一年を願って、今年は、高価な黒いダイヤ「丹波黒」の煮豆を味わってみたい。