毎年11月6日になると福井県越前町から越前がにの漁が始まった知らせが届く。その日はまだ暗いうちから漁船が一斉に沖に向かって出港。昼頃には戻ってきて、越前がにの積み下ろし作業が行われ、越前がにの証である黄色いタグがつけられる。その様子は、ニュースや新聞でも取り上げられ、今や11月の風物詩となっている。
越前漁港 写真提供=一般社団法人越前町観光連盟
越前がにとは福井県の漁港で水揚げされるオスのズワイガニのこと。同じズワイガニでも水揚げされる場所によって松葉ガニ(山陰地方)、加能ガニ(石川県)、間人ガニ(丹後の一部)などと呼ばれ、各地でブランド化されている。
水揚げ高が最も多い越前漁港をはじめ、三国港・敦賀港・小浜港で水揚げされる越前がには、他の地域で獲れたズワイガニとは味が異なり、全国で唯一皇室に献上。全国のズワイガニの中でもトップブランドとして知られている。
水揚げの様子 写真提供=一般社団法人越前町観光連盟
越前がにのおいしさの秘密は、魚やカニが生息しやすい段々畑のような漁場の形、暖流と寒流がぶつかりエサが豊富であること、厳しい冬の気候など、さまざまな理由が挙げられるが、漁場の近さは最大の特徴だといえるだろう。越前海岸沿岸の急深な地形は珍しく、通常カニが生息する水深は250~400mだが、越前海岸沿岸は一気に深くなるため港から漁場まで約37~56km、1~2時間ほどでたどり着くことができる。特に越前町の港は漁場に最も近く、日帰りでも水揚げが可能で、越前がには漁獲されるとすぐに船内の海水の入った水槽に入れられ帰港。そして活きたまま競りにかけられるのは、越前がにならではだ。
カニ競りの様子 写真提供=一般社団法人越前町観光連盟
大きな甲羅と長い脚、大きな爪をもつ越前がには、ぎっしりと詰まった甘みのある身と濃厚なカニ味噌が特徴だ。甲羅についている黒いツブツブはカニビルの卵で、たくさんついている越前がには、脱皮してから長い時間が経ち身が詰まっているといわれる。
平成27年(2015年)には甲羅幅14.5cm以上、水揚げ時の重さ1.5kg以上、爪の幅3cm以上とまさに極大サイズのオスのズワイガニを「極」としてブランド化。越前町では、重さは1.5kg以上(水揚げ時)のみとなり、競り人や仲買人などの同意が必要と、独自の厳しい基準を設け、越前焼で造られた「極」を証明するメダルを付けている。全水揚量の0.05%が該当し、毎年500匹ほどしか獲れない極ガニ。2022年の初競りでは1匹310万円で落札されて話題となった。
せいこがに 写真提供=公益社団法人福井県観光連盟
ズボガニ(水ガニ) 写真提供=一般社団法人越前町観光連盟
メスのせいこがに(漁獲期は11月6日~12月31日)も小ぶりだが、濃厚なカニ味噌やうちこ(卵巣)や外子(受精卵)が味わえると食通に人気だ。また、脱皮して間もないズボガニ(水ガニ)は、殻から身がズボッと抜け、食べやすく瑞々しい味わいが特徴。価格は手ごろだが、傷みやすいため一般流通しておらず、地元でしか味わうことができない逸品だ。
越前がにの刺身 写真提供=一般社団法人越前町観光連盟
越前がには今や全国的にも知られ、年末年始、家族や親戚、友人と集まり、お取り寄せや近くの料理店などで越前がにを味わう機会もあるだろう。それでも、可能なら一度は越前町を訪れて、越前がにを味わってみたい。「越前がにのまち」越前町には、越前がにを扱う店が70軒以上も軒を連ねる。きっと、本場ならではの味わい、料理など、これまでにない美味しさに出会えるはずだ。
カニ料理 写真提供=一般社団法人越前町観光連盟