ひんやり、つるつるっと心地よいのどごし。白く細い麺は涼しげで、暑さで食欲が落ちてしまっても美味しく食べられる素麺は、茹で時間が短く、手軽に作れるのも魅力のひとつ。日本の夏の風物詩として知られる素麺だが、日本の麺文化のルーツであることはあまり知られていない。
三輪山をご神体とする大神神社(写真提供:大神神社)
日本最古の神社、大神(おおみわ)神社を擁する大和の国三輪(現在の奈良県桜井市三輪)は、素麺発祥の地といわれている。『大神神社史料』には、今から1300年以上も昔、大神神社のご祭神の子孫のひとりである従五位上大神朝臣狭井久佐(おおみわのあそんさいくさ)の次男、穀主(たねぬし)が飢饉と疫病に苦しむ民の救済を祈願。穀主は神の啓示どおりに、巻向川と初瀬川に挟まれた肥沃な三輪の地に小麦の種を蒔き、その実を水車の石臼で挽いて粉にし、境内にある清らかな湧き水でこね延ばして糸状にした保存食を作ったと書かれている。その後、三輪素麺の手延べ製法は、兵庫県の揖保乃糸、香川県の小豆島素麺、長崎県の島原素麺など、全国へと広がったと伝承されている。
素麺作りが行われるのは、主に冬だ。三輪素麺は、厳選された小麦粉、水、塩を使用し、三輪山から吹いてくる北風や太陽光など三輪の自然を最大限に活かして生産されている。そもそも手延べとは、切歯を使用せずに細かく引き延ばす製法のこと。三輪では農水省が定める「手延べ素麺」品質表示基準よりもさらに厳しい自主基準を定め、機械を導入しながらも工程のすべてに人の手が加わる伝統製法を守っている。
②麺圧機
⑦掛け巻作業
⑨さばき作業
三輪素麺には、①捏ね前作業、②麺圧機、③板切り作業1(太い紐状に切り分ける)、④板切り作業2、⑤油返し、⑥細め・小撚作業、⑦掛け巻作業、⑧小引作業、⑨さばき作業、⑩門干し、⑪裁断、⑫結束という12の工程がある。その中でも、⑥細め・小撚作業と⑧小引作業ではそれぞれ十分な熟成(ウマシ)の時間をとることで、コシの強さや歯切れの良さに加え、茹でた後ものびにくい素麺が完成する。
鳥居証書GIマークシール
2016年3月には、農林水産省の「地理的表示保護制度」のGIマークに登録。厳密な組合自主基準に則って組合員が製造した素麺だけが鳥居印の帯紙で結束されている。パッケージには鳥居マークのラベルを貼付。三輪素麺の証は、大神神社の鳥居のマークで確認できる。
緒環
誉
また、素麺は細いものほど上級とされている。三輪素麺には神杉(かみすぎ)約600本/1束50g、緒環(おだまき)約475~525本/1束50g、瑞垣(みずがき)約400~475本/1束50g、誉(ほまれ)約350~400本/1束50g4種類の細さがあり、毎年5月には「三輪の緒環」を天皇家へ献上している。
冷やし素麺
日本で初めて素麺が作られたと伝わる三輪素麺。長きにわたって守り継がれている伝統の味は、今もなお日本の夏の味わいとして多くの人々に愛されている。今年の夏は、素麺の歴史に想いを馳せながら三輪素麺を味わいを楽しんでみるのもいいだろう。