「ヴィレット・ホルトハウゼン博物館」は、アムステルダムのヘーレン運河沿いにある、オランダ黄金時代の邸宅を公開した博物館です。政治家ヤコブ・ホップのために1687年に建てられた豪邸で、19世紀末まで20人以上の家主に受け継がれました。
最後の家主は、美術品収集家のエイブラハム・ヴィレットとルイーザ・ホルトハウゼン夫妻です。ルイーザは夫亡き後、夫と自らの名前を冠した博物館にすることを条件に、邸宅と美術品コレクションをアムステルダム市に遺贈しました。1896年に博物館が創立され、現在もなお邸宅が公開されています。
博物館は、ゲストが招かれていたメインフロア、寝室や書斎のある上階、キッチンのある地下の3フロアで構成されています。18世紀のフランス王室の様式に魅了されていたエイブラハムとルイーザは、インテリアを優美なルイ16世様式に統一しました。
メインフロアは格調高く、端麗なセントラルホールがゲストを出迎えます。そこかしこに美術品が飾られ、ダイニングテーブルにはマイセン磁器の華やかなテーブルウェア、ブルーサロンのキャビネットには美しい装丁の古書が並んでいます。家具や調度品をすべてフランスから取り寄せたという舞踏室は、現在の通貨にしておよそ7万ユーロ(約1000万円)をかけて改装されました。
階段ホールには天窓から光が降りそそぎ、最上部では3体の大理石像が、厳かな雰囲気を漂わせています。上階の寝室や書斎では、書き物机やドレッサー、優雅な天蓋付きベッドに、当時の暮らしを垣間見ることができます。
ごく親しい友人のみが招かれた、アンティークルームと呼ばれる八角形の部屋は、こじんまりとして天井も低く、ほっと落ち着ける空間です(上写真)。深紅のベルベット生地の壁やソファが異空間を演出し、17世紀のステンドグラスごしに、やわらかな光が漂います。
エイブラハムとルイーザは、邸宅の中でこのアンティークルームのみ、オランダのネオルネサンス様式で装飾しました。パリ郊外にある別荘のインテリアも、ネオルネサンス様式だったそうです。フランス愛好家の夫妻でしたが、やはり心安らぐのは母国のスタイルだったのかもしれません。
書斎デスクに置かれた書きかけの手紙や、暖炉の前で丸くなって眠る猫、物置の椅子にかけられた使用人のエプロンなど、邸宅にはまるで人が暮らしているかのような演出がされています。地下のキッチンにも、パンやソーセージ、野菜などの模型が並び、竈(かまど)にはヤカンがかけられています(上写真)。格子窓からは庭園を眺められ、壁には小鳥や騎士の描かれた装飾タイルもあり、とても美しいキッチンです。
邸宅の敷地内には、左右対称のレイアウトが美しい、フランス風の幾何学式庭園があります。1739年に造られた邸宅のファサードはルイ14世様式で、この幾何学式庭園と合わせると、その規模は比較にならないものの、まるでフランスのヴェルサイユ宮殿を模したかのような造りです。庭園内は自由に散策でき、春にはチューリップやスイセン、夏にはバラの花が心を和ませてくれます。
ヴィレット・ホルトハウゼン博物館の建物は、オランダの国家遺産に指定されており、ヘーレン運河を含む環状運河地区は、2010年にユネスコ世界遺産に登録されています。アムステルダムで唯一の木造の跳ね橋「マヘレの跳ね橋」も近くにありますので、博物館とあわせて、ぜひ運河沿いの散策やアムステル川の眺めも楽しんでみてください。
ヴィレット・ホルトハウゼン博物館 Huis Willet-Holthuysen
所在地:Herengracht 605, 1017 CE Amsterdam
アクセス:アムステルダム中央駅よりトラム4, 14番で6分Rembrandtplein下車徒歩4分
営業時間:10:00-17:00, 定休無
料金:12.5ユーロ