建仁寺で禅の世界にふれる

トラベル&ライフ 取材こぼれ話
2023年05月31日
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国内旅行
旅行記

トラベル&ライフ2023年6-7月号の巻頭特集「伝統と歴史の中で新しさに出会う」で紹介した建仁寺は、鎌倉時代の創建で、京都で最も古い禅寺として知られている。

国宝『風神雷神図屏風』を忠実に再現した高精細複製品 国宝『風神雷神図屏風』を忠実に再現した高精細複製品

鮮やかな青が印象的な『舟出』(展示は休止の場合があります) 鮮やかな青が印象的な『舟出』(展示は休止の場合があります)

本誌では国宝『風神雷神図屏風』を最先端のデジタル技術を駆使して本物を忠実に再現した高精細複製品や、染色作家・鳥羽美花さんが型染めの技術を用いて描いた襖絵など、新しい見どころを中心に取り上げた。ここでは本誌では掲載しきれなかった見どころについて紹介したい。

大雄苑

建仁寺の見どころと言えば、風情ある庭園は欠かせない。そのひとつが、方丈の前に広がる「大雄苑」。白砂に景石をバランスよく配したシンプルで美しい枯山水様式の庭園だ。

枯山水

「枯山水は水の流れを表現しています。まずはどこから水が流れ出し、どこに流れつくのかなどを想像しながら見るのも楽しみ方のひとつです」と教えてくれたのは、内務部長の浅野俊道さん。「想像することは、より深く興味を持つことにつながり新たな一歩を踏み出すきっかけにもなります」とも話す。

その言葉を受けて、想像力をフル稼働させて再び庭に目をやった。石の前に小さな雫が落ちて、砂紋の流れに沿って川になり、海へと繋がる。その海は青く澄んでいてとても深い......と、想像を膨らませてみた。すると、何かが特別に変化したというわけではないが、心なしか庭全体が生き生きとしたように感じられた。

360度どの角度も正面になる潮音庭

潮音庭

本坊中庭「潮音庭」も見逃せない。中央に三尊石を、その東に座禅石、周囲には紅葉を配し、どの角度から見ても正面になるように造られているのが特徴だ。

潮音庭

「庭は天候や時間、季節によって表情が異なりますので、景色も一期一会です。また、その時の自分自身の心の状態によっても好きな角度も変化するので、その違いを知るのも面白いと思います」。

潮音庭

取材当日の天候はあいにくの雨模様。しかしながら、雨の雫が紅葉の青葉をしっとりと濡らし、緑がいっそう濃く目に映り、この日ばかりは雨も悪くないと思えてくる。と同時に、紅葉が赤く染まるさまを想像すると、その華やかな景色を見に訪れたくなった。

案内してくれた建仁寺内務部長の浅野俊道さん 案内してくれた建仁寺内務部長の浅野俊道さん

この日の取材は早朝7時から。拝観が開始する前に時間をいただいたので、贅沢にもトラベル&ライフだけの貸し切り状態。浅野さんの興味深い話のおかげで、取材を終える頃には、建仁寺という格式高い古刹と禅宗が少し身近に感じられるようになった。特に印象深かったのは、自分の中にある仏心。美しいものを見て、キレイだなと思うことで自分自身の中にある仏心は磨かれ、慈悲の心が育つのだという。なるほど、そうして仏心を磨いて慈悲の心を育てることで心は豊かになっていくのだろう。

そんなことを考えていると、浅野さんからこんな質問があった。
「禅宗と他の宗派の違いはなんだか分かりますか?他の宗派はすべて他力本願ですが、禅宗は自力本願なのです。ある程度の願いが叶う現代社会において、しっかりと自分自身と向き合う禅宗の教えは、現代人にしっくりくると思います。ここでは日常から離れて安らぎの時間を過ごしてほしいですね」。

美しいものにふれ、想像力を働かせて心を豊かにする時間は、自分と向き合う時間にもつながるに違いない。

文=木村理恵子 写真=椋尾 詩
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