島根県北東部松江市と出雲市に広がる宍道湖は、「日本百景」の一つにも選ばれている夕日の名所だ。また、240種類以上もの鳥類が生息し、冬にはカモ「キンクロハジロ」が約2万羽、「スズガモ」や「マガン」など、毎年4万羽以上の水鳥が渡来。バードウォッチングを楽しむ人々が集まるスポットでもある。2005年には、『ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)』に登録された。
「宍道湖七珍」
宍道湖は西に奥出雲、船通山を源流とし、出雲平野を流れる斐伊川、東に日本海から松江を流れる大橋川など、約20もの河川とつながり、淡水と海水が入り混じる汽水湖である。そのため魚種も豊富で淡水魚と海水魚が生息しており、中でもスズキ、モロゲエビ(ヨシエビ)、ウナギ、アマサギ(ワカサギ)、シジミ、コイ、シラウオは「宍道湖七珍(しんじこしっちん)」と呼ばれ、島根県を代表する味覚となっている。
ヤマトシジミ
宍道湖のヤマトシジミは漁獲量が日本一だ。ヤマトシジミは汽水域の砂礫底に生息するシジミで、日本に生息するシジミの中で最も味がよいとされている。現在、宍道湖では約270名の漁師がシジミ漁を生業とし、船の上からツメの付いたカゴに竿の付いた道具「鋤簾(じょれん)」を引いてシジミを獲る手掻き、機械掻き(動力操業)、水流式手掻き、湖の中に入って水の中で歩きながら作業する入り掻きなどの方法で漁獲している。また、宍道湖の豊かな恵みを残すために、一日の操業時間や採捕量、休漁日を定めた厳しいルールを守り、シジミ漁を次世代につなげていくことを使命に、保全活動も定期的に行っているという。
手掻き漁
長い歴史の中では、国の方針で宍道湖の淡水化事業が進められ、ヤマトシジミは絶滅の危機にさらされたこともあったが、漁師や周辺住民たちが立ち上がって署名運動や集会、海上漁船パレードなどの反対運動を行い中止に。漁師たちは自らの手で守り抜いた宍道湖への感謝を忘れずに漁を行い、良質でおいしいシジミを提供している。
「宍道湖しじみ」
現在、宍道湖全体のシジミの漁獲は約4,000t。その中で、宍道湖漁業協同組合の直売所から販売するシジミに関してロゴマークをつけ「宍道湖しじみ」として販売している。サイズが大きく、殻が厚いシジミだけを漁師が一つひとつを手で選別したもので、ふっくらとした身と深い旨味は秀逸。シジミのことを知り尽くした地元の漁師たちだけが分かるおいしいシジミをぜひ味わってみたい。
シジミ漁の様子
宍道湖のヤマトシジミの旬は、7月から8月にかけて。産卵期を迎えたシジミは栄養分が豊富でミネラルも豊富。ぷりぷりとした食感が特徴だ。漁師や地元の人たちが守り抜いた宍道湖のシジミ。その歴史を知ることで、ひと味違った美味しさを感じることができるのではないだろうか。