麺は口に入れると柔らかく、噛めばもっちりとしたコシがある。そしてイリコと昆布を使用した深い味わいの出汁。古くから愛され続け、讃岐うどんとともに独自の文化を育んできた香川県。人口1万人当たりのうどん・そば店舗数、うどんの生産量がそれぞれ全国一位(※平成21年)であり、県民の生活には讃岐うどんが深く浸透し、県外からも讃岐うどんを求めて多くの人が訪れている。
「滝宮天満宮」には「龍燈院」の跡地がある 提供:滝宮天満宮
神事なども行われている 提供:滝宮天満宮
讃岐うどん発祥の地は諸説あるが、香川県綾川町滝宮に残る伝説では、9世紀初めごろ、弘法大師・空海からうどんの原型といわれる「はくたく」の作り方を伝授された弟子の智泉(ちせん)が滝宮で両親に振る舞ったのが始まりと伝えられる。智泉はその後寺院「龍燈院」の初代住職となり、讃岐うどんは金刀比羅宮に訪れる人たちの宿場町、門前町として栄えた綾川で広まり、そこで讃岐うどんを食べた人によって全国的に評判が知られるようになった。
金刀比羅宮の表参道にはうどん店が点在している
うどんを打つ様子が描かれた屏風絵の一部
提供:金刀比羅宮
また、今年2月、琴平町は「讃岐うどん屋発祥の地」として名乗りを上げた。根拠となったのは、金刀比羅宮が所蔵する約300年前の屏風絵「象頭山社頭並大祭(ぞうずさんしゃとうならびにたいさい)行列図屏風」。秋の例大祭時の様子だけでなく、うどん屋が麺を打ち、伸ばし、切る場面が描かれており、現存する讃岐うどん店の史料としては最も古く、讃岐うどん屋の発祥の証となっている。
手打ちうどんのおいしさは格別 提供:(公社)香川県観光協会
香川県の人たちにとって、うどんは朝昼夜のごはんのほかに、おやつにも、飲んだ後にも楽しむソウルフードだ。香川県ならではのうどん文化も浸透しており、年末は年越しうどんを食べるほか、新年を祝って白いうどんに赤い食材を添えて食べる「年明けうどん」や、新築した家では新しいお風呂に年長者の順に入り、湯船に入ってうどんを食べるという習わしがある。また、麦刈りから田植えまでの忙しい日々が落ち着く「半夏生」(7月2日)にはうどんを食べる風習があったことから、その日を「うどんの日」と定め、県内各地では、献麺式やうどん接待(無料サービス)が行われる。
郷土料理「しっぽくうどん」 提供:(公社)香川県観光協会
讃岐うどんはそのおいしさが人気を集め、セルフスタイルのうどんチェーン店も全国的に増えているが、一度は香川県の地元の人たちが長年通う讃岐うどん店をぜひ訪れてみたい。メニューは定番のかけうどんやざるうどん、ぶっかけうどん、釜揚げうどんや釜玉うどんなどといった定番から、地元で採れた野菜を煮込んで麺の上にかけて食べる郷土料理「しっぽくうどん」、「白みそアン雑煮うどん」「さぬき皿うどん」といった個性的なものまで多彩。店ごとにダシの味わいが異なり、天ぷらや練り物といったトッピングなどを変えることで、さまざまな味わいを楽しむことができるだろう。
現在香川県には500以上のうどん・そば店があるといわれている。讃岐うどんの歴史を感じに、また現地の人たちが育んできた讃岐うどん文化を楽しみに、ぜひ、本場・香川県を訪れてみたい。