トラベル&ライフ2023年2-3月号の特別企画では北陸屈指の名湯、あわら温泉と加賀温泉郷の見どころを紹介した。そのなかで取り上げた加賀市のご当地グルメ「加賀カニごはん」についてもう少し詳しく紹介しよう。
「加賀カニごはん」は、2015年に開通した北陸新幹線の開業に合わせて、加賀市の新しいおもてなし料理として誕生したカニ御膳。橋立港で水揚げされた香箱ガニ(雌のズワイガニ)を一杯使用し、火が通ったカニごはん、旬の野菜や魚を使った小鉢が5品(揚げ物、和え物、酢の物、焼き物、香の物)、地場産の味噌を使った味噌汁、加賀棒茶が付くなど、いくつかのルールがある。また、お盆と汁茶椀は加賀市の特産品である山中漆器、小鉢と加賀棒茶の敷皿には九谷焼を使用するのも決まりだ。これらのルールを守れば、料理の内容は自由なので、現在4店舗の店が、それぞれ趣向を凝らした「加賀カニごはん」を提供している。
取材で訪ねた「割烹加賀」は、山代温泉で3代続く老舗料理店。店内は落ち着いた雰囲気で、通された個室の襖の引き手が九谷焼なのが印象的だ。
お目当ての「加賀カニごはん」が運ばれてくると、思わず頬がゆるんだ。お盆の上にのった小鉢の1つには温泉卵が入っているのだが、その卵には愛らしい顔が描かれ、頭にはタオルを模した小さな布がのせてある。まるで湯船に浸かっているようで、遊び心たっぷりの演出に気分が華やぐ。
取材時の「加賀カニごはん」は、カニ入り天丼、カニの真薯とカニの足が入ったカニすき焼き、小鉢はキノコとホウレンソウのお浸し、カボチャとナスのはさみ揚げなど。カニ入り天丼は、旬の野菜の天ぷらと、ほぐした香箱ガニの身と内子、外子をのせた甲羅が盛られて登場する。これに温泉卵を一緒に混ぜて味わう。ひと口味わうとカニの風味が口いっぱいに広がり、温泉卵がコクとまろやかさをプラスしてくれる。この「加賀カニごはん」を味わえるのは3月までで、4月に新バージョンが登場する。新作もまた楽しみだ。
菊の湯入口の格天井は山中漆器の技が結集
本誌で紹介した山中温泉は、1300年余の歴史を誇る古湯。見どころのひとつとして本誌では山中座を紹介した。山中節や四季の舞などを鑑賞できるほか、山中漆器の技術を結集して作られたロビーの格天井などが見ものだが、併設する総湯「菊の湯」(女湯)も見逃せない。ちなみに男湯はその向かいに立つ。
菊の湯(女湯)
山中温泉は「奥の細道」の途中で松尾芭蕉が訪れたことで知られ、「山中や菊は手折らじ湯の匂い」と詠んでいる。これは山中温泉に入れば、長寿の効能があるという菊の露を飲むまでもない、という意味だという。芭蕉が愛した名湯をゆっくり楽しむのもおすすめだ。