透明度が高いアマミブルーの海と、金作原やマングローブの原生林、そして豊かな自然の中で独自の命を育み続ける動物たち......。鹿児島県と沖縄本島のほぼ中間に位置する奄美大島は、鹿児島の島としては最も大きく、日本の離島の中では、佐渡島に次ぐ大きさ。島のほとんどの部分が森林で覆われ、降雨量は年間約3000mmという環境の下、亜熱帯性広葉樹林と熱帯系の樹林、シダ類が生い茂り、世界的にも貴重な生態系が育まれている。
金作原(きんさくばる)
奄美大島が「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」としてユネスコの世界自然遺産に登録されたのは、2021年のことだ。登録された理由は、生物の多様性が挙げられる。かつて大陸とつながっていた時代、もともと大陸に生息していた生物たちは奄美大島に移動してきた。奄美大島は、長い年月の間に地殻変動などを繰り返して現在の形になったが、やがて大陸の生物は絶滅し、外敵のいなかった奄美大島において生物は今もなお生き延びることができているという。アマミノクロウサギ、ルリカケスといった固有種はその代表格だ。
アマミノクロウサギ
ルリカケス
オーストンオオアカゲラ
オットンガエル
また、奄美大島は固有種のほかにも、珍しい生物が生息する貴重な島としても知られている。現在日本全体で確認されている生物の種類約38,000種のうち奄美大島での確認種数は5,083種(維管束植物は亜種・変種を含む、鳥類は渡り鳥及び迷鳥を含む)。国土の面積の0.2%にも満たない奄美大島で、国内全体の生物種の約13%が確認されているというのだから驚きだ。
ヘツカリンドウ
ユワンツチトリモチ
奄美大島では、動物だけでなく植物も多様性に富んでいる。世界自然遺産の登録の際、推薦書に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」において1,819種(亜種・変種を含む)の維管束植物種数が生息していると報告されたが、そのうち1,307種が奄美大島に分布。125種の固有種があり、島の名前がついた植物も多く存在している。
マングローブ
奄美大島の大自然を体感するのなら、金作原原生林のトレッキングやマングローブカヌーツーリングがおすすめだ。また、奄美大島発祥の地といわれる「湯湾岳」太陽の滝つぼと呼ばれていた「マテリアの滝」、精霊が宿るといわれる「西原(にしばる)のガジュマル」などのパワースポットをめぐるのも楽しいだろう。散策の途中に、固有種の動物や植物に出会えたら、自然を敬う気持ちを忘れずに、むやみに触らず自然のままの姿を静かに観察したい。
奄美の海
もちろん周辺の海にも多様な生物が生息している。さまざまな種類のサンゴや魚類が生息する、奄美大島の海はスキューバダイバーの憧れの地となっている。また、ウミガメが産卵に訪れたり、クジラが繁殖のために奄美近海まで訪れたりすることもあるという。ぜひダイビングなどのマリンアクティビティや、エコツアーなどに参加して、さまざまな生命の息吹を感じてみたい。
多種多様な生物が生息する奄美大島。奄美大島の5市町村(奄美市・大和村・宇検村・瀬戸内町・龍郷町)では、平成25年(2013年)に共通の「希少野生動植物の保護に関する条例」を制定した。島内の希少野生動植物の中から、島ならではの固有種や、数の少ないもの、盗採の恐れがあるものなどについて、捕獲・採取等を禁止する種(動物22種・植物35種)を指定。幅広い活動を行うことで、奄美大島の自然を守り、命をつないでいる。