海や山、棚田やみかん畑の中、風を切って走る。目指すのは、古くから信仰に支えられた聖地、熊野三山や高野山。白浜や白崎海岸といった美しい海岸ルートを走るのも爽快だ。
身体への負担が少なく、誰にでも手軽に始められると人気のスポーツ、サイクリング。近年は、CO2の削減など環境への負担を軽減できSDGsにも貢献できると注目を集めるアクティビティだ。和歌山県は地元の人だけでなく、観光で訪れる人が地域の魅力を楽しみながら健康づくりもできる、約800kmにわたるサイクリングルート「WAKAYAMA800」を整備した。
「きのくに線サイクルトレイン」は予約不要・追加料金不要。自転車と共に乗車できる(写真提供:JR西日本和歌山支社)
ルートにはブルーラインを設置して、できるだけ車が通らない道へと誘導。また、サイクリストが休憩などをするために気軽に立ち寄れる「サイクルステーション」や、自転車を屋内で保管でき、空気入れや修理工具の貸し出しがある「サイクリストに優しい宿」を設け、サイクリングでの快適な旅を提案している。きのくに線の御坊駅から新宮駅を結ぶ「きのくに線サイクルトレイン」(普通列車)を利用すれば、同じルートを往復したりすることなく、体力を調整しながらサイクリングを楽しむことができるだろう。
きのくに線サイクルトレインについてはこちら
太平洋岸自転車道の終着点・加太
「WAKAYAMA800」には、他県にもつながる自転車道がいくつか含まれている。中でも、千葉県銚子市から神奈川県、静岡県、愛知県、三重県を経て和歌山県に至る1,400kmの太平洋岸自転車道は、海辺を走り続ける気持ちの良いルートだ。和歌山県では、新宮から加太まで続き、途中には円月島、白良浜、千畳敷、三段壁などの名所が点在する白浜、日本のエーゲ海とも称される白崎海岸といった景勝地も点在。また、太平洋岸自転車道の終着点となる和歌山市加太には、紀淡海峡をバックに自分の自転車を置いて記念撮影もできるモニュメントもあり、サイクリストの聖地となっている。
紀の川サイクリングロード
京都市西京区嵐山から奈良県内を経て、和歌山港を結ぶ全長約180kmの京奈和自転車道の和歌山県区間は、自転車道路「紀の川サイクリングロード」が整備されている。スタートは紀の川河口から。平坦な河川敷の道は走りやすく、初心者でも気持ちのよいサイクリングが楽しめる。西国三十三所の寺院の中で最大級のお堂がある粉河寺大門やネコ型の駅舎で知られる和歌山電鉄の貴志駅など、立ち寄りポイントもおもしろい。
三重塔と那智の滝(写真提供:公益社団法人 和歌山県観光連盟)
海外線の景勝地をめぐるのも魅力だが、サイクリングではヒルクライム(登坂競技)も楽しみの一つだろう。新宮駅から太地駅までのルートは、熊野速玉大社を詣で、那智山を登って那智の滝と熊野那智大社を訪れ、くじらの町で知られる太地町へと至る。海と山を楽しめるだけでなく、軽いアップダウンが楽しめるのも魅力。「ツール・ド・熊野」の3ステージとしても知られる、サイクリスト憧れのルートだ。
高野山奥之院(写真提供:公益社団法人 和歌山県観光連盟)
高野山は、1200年以上もの歴史を誇り、今もなお117の寺院が点在する真言密教の聖地だ。九度山から高野山へと続くルートは、充実のヒルクライムが続く。ひんやりとした空気の中、杉林の中を走るほどに、高野山が信仰の対象として特別な地であったことが分かるだろう。そのまま九度山へ戻ってもよいが、高野山から箕島まで有田川沿いに走ることも可能。途中「日本棚田百選」の一つ、あらぎ島も立ち寄りたいスポットだ。
古座川の一枚岩
和歌山県の代表的な観光地を800kmにわたって結ぶサイクリングルート「WAKAYAMA800」。海あり山ありそして世界遺産ありのすばらしい地を、自分のペースで楽しむことができるのは、サイクリングならではだ。車やバスなどとはまた違った感動に、きっと出会えるだろう。