トラベル&ライフ2022年2-3月号で訪ねた石川県加賀市の片山津温泉。一帯は越前加賀海岸国定公園に指定されているだけに、豊かな自然に恵まれている。その魅力を体感できるのが、加賀市鴨池観察館だ。片山津温泉街から車で15分ほどなので、立ち寄りスポットとしてもおすすめだ。
絶滅危惧種のトモエガモも飛来。雄は緑と黒色の頭が特徴的
加賀市鴨池観察館があるのは、片野鴨池の畔。片野鴨池は加賀市の西に位置し、日本海からは約1㎞内陸にある。面積は約10haと小さいが、現在もガンやカモ、ハクチョウなど数千羽を超える鳥たちが毎年、シベリアから越冬にやってくる。なかには極東アジアに生息する絶滅危惧種のトモエガモの姿もあり、毎年安定して2000羽近くのトモエガモが鴨池で越冬する。
また、国の天然記念物であるマガンやヒシクイの全国有数の飛来地でもあることなどから、湿地として国際的価値が認められ、1993年にラムサール条約の登録湿地となった。
カウンターには望遠鏡が置かれ、自由に観察できる(写真・椋尾詩)
鴨池観察館に入ると、大きな窓から光が差し込み明るい雰囲気が漂う。片野鴨池を一望できる窓辺にはカウンターと椅子、そして望遠鏡が置かれ、居ながらにしてバードウォッチングが楽しめる趣向だ。暖かな室内でゆっくりと座って観察できるのは、バードウォッチング初心者にはうれしい。
さっそく、望遠鏡の前に陣取る。裸眼でも野鳥の姿は見えるが、望遠鏡で見ると、手を伸ばせは届きそうな距離に感じられる。羽のツヤや微妙な色の違いなどもわかる。多くの水鳥を観察できることもさることながら、望遠鏡で観察をするという行為そのものにも知的好奇心がくすぐられた。
「マガンは人間に対して警戒心がとても強いので、危険を感じ取るとすぐに飛び立ってしまいます。毎年これだけの渡り鳥がやってくるのは、人と自然が共存できている証拠です」とはレンジャーの中野さん。
中野さんが指す方をみると、寝ているカモを発見! こうしてその時々の池にいる野鳥についての生解説を聞いたり、観察のアドバイスをもらえるのもレンジャーが常駐しているから。ちょっとした疑問も直接聞くことができるのでいっそう興味がわいてきて、あっという間に1時間が過ぎていた。
年間を通して一番水鳥が多く見られるのは、11月から2月。その年によって多少の変動はあるが、ピーク時でカモは4000羽以上、ガンは2000羽以上にもなる。ちなみに、夕方は西日の加減で鳥が見えづらくなることから、観察は午前中がおすすめとのこと。さらにマガンやコハクチョウの多くは昼間、餌を探して周辺の田んぼで過ごすことが多いという。
館内の様子(写真・椋尾詩)
カウンターには水鳥たちの特徴を書いた資料が置かれている(写真・椋尾詩)
鴨池観察館は、片野鴨池の環境保全の拠点となる施設として1984年にオープンした。ラムサール条約の登録湿地になる10年近く前に建築されていることからも、長年環境の保全に努めてきたことがうかがえる。現在はバードウォッチャーや観光客の人気スポットとしてだけでなく、近隣の学校では社会科見学で訪れたり、子供たちが自由研究のために活用したりと幅広い年齢層の人々に親しまれている。
田植え体験やトンボやカエルなどの生き物観察などのイベントを開催
年間を通して週末を中心に開催するイベントも人気で、特にマガンやヒシクイが冬に餌を食べた田んぼで行う田植えや稲刈り体験は、片野鴨池ならではの貴重なもの。また、睡眠中のトンボや羽化したばかりのアブラゼミなどが見られる夏の夜に行われる鴨池自然観察なども人気。四季折々に豊かな自然を親子で楽しむ旅の目的地におすすめだ。