トラベル&ライフ2022年2-3月号の特集「茨城のアンコウ、和歌山のクエ」の大扉(P8~9)を飾った写真は、茨城県大洗町にある大洗磯前神社の神磯の鳥居。太平洋の荒々しい波を受けて岩礁に立つ鳥居は、茨城県屈指の絶景スポットとして知られている。その姿はいつ見ても荘厳だが、さらに神々しさが増す日の出を狙って撮影に臨んだ。
取材当日の日の出の時刻は6時32分。その30分ほど前に現地に着くと、すでに20名近い人が海岸に集まっている。三脚を立てカメラを固定して待っている人、スマートフォンを掲げて撮影してはベストスポットを探す人、おしゃべりに興じる人などさまざまだ。
日の出の時刻が迫ってくると、少しずつ空と海が明るくなり、雲間が徐々に優しいオレンジに染められていく。その間も絶え間なく波が打ち寄せ、時には鳥居の高さを超えるような大波が上がる。凛として立つ鳥居の背後で刻々と色を変える空と海。波が岩に砕けてしぶきが上がる様子は力強さと神々しさがあり、いつまで見ていても見飽きることがない。
大洗磯前神社
大洗磯前神社は、平安時代初期の斉衡3年(856)創建と伝わる古社。御祭神は大己貴命と少彦名命で、この2人の神様が降り立ったのが神磯の鳥居が立つ場所という。
現在の社殿は、水戸黄門で知られる水戸藩2代藩主徳川光圀の命で再興されたもの。施された彫刻とともに、江戸時代初期の建築様式を今に伝えるとして、県の文化財に指定されている。
境内からも大洗の海を望む
本誌でアンコウ鍋を紹介した「味処 大森」は、地元でも評判の海鮮料理店。本誌ではアンコウの肝を乾煎りし、出汁に溶くどぶ汁鍋を紹介したが、もう一つの人気メニューが「漁師のどぶ汁」だ。
どぶ汁は、もともと寒い冬に船上で漁師たちが食したのが始まりという。アンコウは水分が多いので、貴重な水を使わずにできるうえ、ぶつ切りにしたアンコウを野菜と一緒に煮込んで味噌を溶けば手軽に暖がとれ、栄養も摂れるので重宝だ。ちなみに、どぶ汁という名前は、あん肝を鍋で乾煎りした時に肝から出た肝油で汁が濁酒のように濁ることに由来する。
どぶ汁に使う材料
鍋でアンコウの肝を乾煎りする
乾煎りしたら、材料を鍋に入れる
「最近はアンコウについて調べたうえで、食べに来るお客様も多く、漁師が食べていたようなどぶ汁を食べてみたいという方が多くいらっしゃいます。それで1日1食限定で提供することにしました」と話すのは、女将の大森佳子さん。
「漁師のどぶ汁」は、まず土鍋で生の肝を乾煎りし、そこへアンコウの7つ道具と呼ばれる身、皮、水袋(胃)、肝、ぬの(卵巣)、エラ、トモ(ヒレ)とニンジンや大根など少量の野菜を入れ、蓋をする。アンコウから水分が出て、沸騰してきたら味噌を溶き入れれば完成だ。
「漁師のどぶ汁」。寒い冬にぴったり
さっそくひと口味わうと、汁は濃厚。本誌で紹介した「どぶ汁鍋」とはまた味わいが異なり、野趣あふれる。アンコウは今が旬で、例年3月中旬まで楽しめる。