「怠け者はいねが~。泣く子はいねが~」大晦日の夜、ナマハゲが大声で叫びながら集落を練り歩き、家々を巡る。小さな子どもたちは恐れおののき、泣き叫ぶ。大人たちはナマハゲをなだめ酒や料理でもてなす。
これは、秋田県男鹿半島のほぼ全域で行われる「ナマハゲ行事」である。恐ろしい面をかぶり、出刃包丁を手にしたナマハゲは、子どもたちにとっては恐怖以外の何物でもないが、実は、五穀豊穣、無病息災をもたらす来訪神だ。この地域の人たちにとってはなくてはならない、年末の行事なのである。
真山神社でナマハゲの魂を入れる。ナマハゲの起源は、「九百九十九段の石段」の鬼、修験者、山の神、漂流異邦人など諸説ある
男鹿の「ナマハゲ行事」は、それぞれの地域によってナマハゲの面や衣装、しきたりなどが異なる。男鹿市真山地区のナマハゲは、大晦日の夕方にナマハゲに扮する人々が町の会所に集まり、ワラ製の衣装「ケデ」を着て、面を付けて、真山神社でナマハゲの魂を入れる神事を行い、その後真山神社境内にある歓喜天堂を詣でて、家を巡る。
ナマハゲは家に上がったとき7回、お膳に着くとき5回、お膳から立ち上がって3回四股を踏む
来訪神だからといってナマハゲは、どこの家でもずかずかと上がりこむようなことはしない。まずは、先立(さきだち)という案内人がナマハゲの来たことを告げ、入ってよいかを確認する。その年に不幸や出産、病人がいる家にはナマハゲは入ることができないため、玄関先で足踏みだけをして次の家へと移動するのだ。
家の主人が了解すると、ナマハゲは家の中に入り次の年の五穀豊穣や無病息災を祈願して四股を踏む。「怠け者はいねが~。泣く子はいねが~」と大声を上げ、足を踏み鳴らしながら、隠れている子どもたちを探し回る。大人たちは古くから伝わる作法に従って酒や料理でもてなし、家の主人はその年の収穫、家族の様子についてナマハゲと問答を行う。そして家の人に「新しい年もまめ(元気で)過ごせ」、子どもたちには「親の言うことを聞かないと連れて行くぞ」などと告げて次の家へと移動する。
家を巡り終えるとナマハゲは歓喜天堂に戻り、ケデを柱に巻き付けてお堂を詣で、その年の「ナマハゲ行事」は幕を閉じる。
「男鹿のナマハゲ」は、昭和53年(1978年)に重要無形民俗文化財に指定。平成30年(2018年)年には「男鹿のナマハゲ」など8県10行事が「来訪神:仮面・仮装の神々」として国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。
「男鹿真山伝承館」
「なまはげ館」
「なまはげ柴灯まつり」
「ナマハゲ行事」は地元の人たちの大切な行事であるため、観光客にはなかなか体験することができないが、「男鹿真山伝承館」では、「ナマハゲ行事」の体験ができるほか、「なまはげ館」では、60地区にも及ぶナマハゲの面や衣装を展示、ナマハゲの衣装を身に付けることもできる。また、毎年2月第2金・土・日曜日には、観光行事「なまはげ柴灯(せど)まつり」を開催。なぞの多いナマハゲと、その地域に暮らす人たちの独特の文化を発信している。
恐ろしい姿をしているが、怠け心を戒め、家族の絆も深めることで、幸せを運んでくれる来訪神。今年も、男鹿半島にはナマハゲがやってくる。