トラベル&ライフ2021年12-1月号の「富士山」特集で訪ねた北口本宮冨士浅間神社。その歴史は古く西暦110年までさかのぼる。日本武尊が東征の折、近くの大塚山で富士山を遥拝したことから聖地となり、以来富士の山霊を祀ったのが始まりだ。今回は本誌では紹介しきれなかった北口本宮冨士浅間神社の見どころをクローズアップしたい。
随神門。蟇股に七福神や鶴亀などが施される彫刻意匠もみごと
神楽殿。現在も神社の祭礼の際に継承する太々神楽が奉納される
北口本宮冨士浅間神社の現存している建物の多くは、江戸中期に建てられている。本誌でも紹介した通り、約400年前に建造された本殿をはじめ、随神門や神楽殿、富士山の溶岩で造られた手水舎など、計11棟が国の重要文化財に指定されている。
堂々とした姿が印象的な「冨士太郎杉」
境内でひときわ存在感を放っているのが、樹齢1000年を超える5本の杉の御神木。そのうちの1本は「冨士太郎杉」と呼ばれ、山梨県の天然記念物に指定されている。天に真っすぐ伸びる樹高は約30m。幹周りは約12.7mもあり、そのどっしりとした太い幹には注連縄が結ばれ、威厳に満ちた姿が印象的だ。
神聖な空気に満ちた参道
国道138号線から続く参道も見逃せない。約300mと長い参道の両側には樹齢300年以上の杉と檜の巨木が立ち並び、昼でも鬱蒼として、神聖な雰囲気が漂う。江戸中期に造られたという石灯籠も列をなし、苔むした姿はひっそりとして、時の流れが感じられる。
冨士山大鳥居。朱色が木々の緑に映えて美しい
参道の突き当りには冨士山大鳥居が立つ。古代に建立され、以来建て替えや修理などが繰り返され、現在の鳥居は60年ごとの修理を終え、2014年に完成した。高さは約18mで、木造の鳥居では日本一の大きさを誇る。神社名ではなく「三国第一山」と書かれた扁額にも注目したい。
「この三国は今でいう、日本と中国、インドを指します。昔の日本人にとって世界といえばこの三国であり、つまりは富士山を"世界一の山"と言っています。この冨士山大鳥居は、神社の鳥居である前に富士山の鳥居、つまり富士山の入り口ということです」と話すのは、権禰宜の髙阪雄次さん。
吉田口登山道の起点に立つ登山鳥居
北口本宮冨士浅間神社は富士登山道のひとつ、吉田口登山道の起点でもある。その起点に立つのが、境内の右奥に位置する登山鳥居。例年6月30日には鳥居に張られた注連縄を切る「お道開き神事」が行われることでも知られる。鳥居をくぐれば富士登山への"第一歩"。聖なる場所と俗なる場所の境目に立つのが興味深い。
富士山は2013年に世界文化遺産に登録された。その理由は、富士山が信仰の対象であるとともに芸術の源泉として日本人の自然観や文化に大きな影響を与えてきたことが評価されてのことだ。世界遺産の構成資産に登録されている北口本宮冨士浅間神社は、登録理由の「信仰の対象」をより深く感じることができるスポットだ。