秋の味覚といえば栗。茹でたり、蒸したり、お菓子にしたり、ごはんにしたり。多彩な味わいが楽しめるのは、旬を迎えるこの時期ならではだ。
長野県北部に位置する小布施は栗の名産地として知られている。けれども、小布施は栗の生産量が多いというわけではない。古くから、豊かな風味があるおいしい栗を作っていることで知られているのだ。
小布施栗は毎年9月上旬から10月中旬に収穫される
小布施で栗の生産が始まった時期については諸説あるが、一説には室町時代からといわれている。水はけのよい扇状地、酸性の土壌、北信の気候は栗の栽培に合い、小布施ではおいしい栗ができると評判だった。江戸時代初期には小布施は松代藩の「御林」となり、文政3年(1820年)にはそこで収穫した栗を将軍家へ献上。小布施栗の名が全国的に知られるようになった。
文化5年(1808年)創業、桜井甘精堂の本店
小布施では、小布施栗を使った菓子も名物で、現在も多くの店で栗菓子を販売している。小布施で初めて小布施栗を使った菓子が作られたのは、文化5年(1808年)のこと。桜井甘精堂の初祖・桜井幾右衛門氏が生み出した「栗落雁」がはじまりだ。栗の粉をひいて作り上げた落雁はこれまでにない菓子として知られ、元治2年(1865年)には、京都伏見宮家から裏菊御紋章付の栗落雁の調製を拝命したという輝やかしい歴史がある。
純栗ようかん(左上)、純栗かの子(右上)、栗おこわ(左下)、栗の木テラスモンブラン(右下)
その後も、幾右衛門の弟・桜井武右衛門が栗だけの「純 栗ようかん」を、五代目の桜井佐七が栗と栗あんだけの「純 栗かの子」を生み出し、明治時代には小布施栗だけでなく、小布施栗を使用した銘菓のおいしさも広く知られるようになった。現在、「栗落雁」は作られていないが、どら焼きなどの和菓子をはじめ、ソフトクリーム、モンブランなど洋菓子、栗おこわなどが桜井甘精堂をはじめその他の栗菓子店でも作られており、多彩なおいしさで訪れる人を楽しませてくれる。
栗の木の間伐材を敷き詰めた「栗の小径」
小布施は、松川と千曲川が合流する地点に位置し、江戸時代には千曲川の舟運が発達して交通の要として栄え、その名も二つの川が一つになる「逢う瀬」が由来と言われている。また、葛飾北斎や小林一茶など文人墨客が多くの作品を残すなど、現在も多くの美術館やギャラリーが点在するアートの町でもある。
独自の文化が生まれ、名産の小布施栗を活かした食文化を育んできた小布施。
この秋、栗のお菓子や栗おこわをいただき、小布施の豊かな自然や歴史が生み出した華やかな文化を感じてみては。