九州の北西部に位置し、世界有数の漁場として知られる玄界灘。大陸棚が広がり、対馬海流が流れ込む海域では豊富な魚介類が育ち、日本有数のケンサキイカ(地方名ヤリイカ)の漁場としても知られている。佐賀県北部、玄界灘に面した唐津市呼子町は長い歴史を誇る港町だ。そして呼子はイカの活造りの誕生の地でもある。
鮮度抜群、透明でまだぴくぴくと動いたままテーブルに運ばれるイカの活造りの味は格別。コリコリとした食感と、濃厚な甘みはこれまでに食べたことのないおいしさだ。お刺身を存分に楽しんだら、残りを天ぷらや塩焼きにしてもらって、白くやわらかなイカを味わう。新鮮なイカを余すところなくいただく贅沢。これが「呼子のイカ」である。
玄界漁業の基地として重要な役割を果たしてきた呼子港 写真提供:佐賀県観光連盟
そもそもイカは環境の変化に弱く、人間が触れただけでも火傷してしまうとても繊細な生き物だ。ストレスを感じると体内にアンモニアが発生し、美味しさがどんどん失われてしまうため、地元の人たちが味わうようなおいしいイカを観光客に提供することができなかったという。
そこで、考えだされたのがイカにストレスを与えずに飲食店まで運ぶ方法だ。漁師たちは漁が終わると、イカを触らずに針からはずし、漁港でセリにかけるのではなく、直接契約している飲食店の生け簀にイカを入れる。汲み上げた海水が入った生け簀は、自然環境に近い状態で、飲食店までイカを美味しく新鮮に運べるようになった。
天日干しのイカが並ぶ様子は港ではよく見られる 写真提供:佐賀県観光連盟
また、呼子のイカは一年中楽しめるのが魅力だ。イカの王様といわれるケンサキイカは5月~11月に水揚げされる。特に春から夏にかけては「水利(すいり)」と呼ばれる大きなイカが獲れるといわれ、特に毎年7月ごろは水揚げ量が多いため、夏がケンサキイカの旬は夏といわれることが多い。ケンサキイカの時期が終われば、11月~3月ごろにかけてはアオリイカ(地方名ミズイカ)、12月~2月ごろにはヤリイカ(地方名ササイカ)、3月~6月ごろは肉厚なコウイカと、時期によって違う種類のイカが楽しめるのもいい。
ぷりぷりの食感がたまらないいかしゅうまい 写真提供:佐賀県観光連盟
呼子の名物はイカの活造りのほか、一夜干しやいかしゅうまいといった加工品もあり、こちらはおみやげにもぴったりだ。日本三大朝市の一つ「呼子の朝市」に出かければ、イカをはじめさまざまな魚介類が並び、店主とのやり取りも楽しく、リーズナブルに買い物ができるほか、おまけもつけてもらえることもあるのでぜひ立ち寄ってみたい。
店主とのやりとりも楽しい朝市 写真提供:唐津観光協会
地元の人たちの力により実現したイカの活造り。そのおいしさによって「呼子のいか」の名前は全国的に知られるようになり、一度その味を楽しんでみたいと、全国各地から多くの人が訪れる。