濃厚な赤紫色、郷愁漂う山ぶどうの香りをほのかに感じる。口に含めば、初めに山ぶどうの野性味溢れる独特な味わい、続いて華やかな果実味が追いかけてくる。「紫輝」は、素朴さと洗練という相反する2つの味わいが一杯で楽しめる、宮田村らしいワインである。
日本の気候に適している「ヤマソービニオン」
赤ワイン「紫輝」が誕生したのは、1999年(平成11年)のことだ。長野県上伊那郡宮田村の農産物を活かして特産品を作ろうと村が動き出したのがはじまりだった。その中で、村内の山林に繁殖し、秋には「山の果実」として村民に深い馴染みのあった山ぶどうに着目。当時はワインブームだったこともあり、山ぶどうを使ったワインを造ることが決定した。
けれども、山ぶどうを使ってのワイン造りは全くの手探り状態だったという。そこで、山梨大学の山川祥秀(やまかわよしひで)教授に相談したところ、山ぶどうは農耕地での栽培が難しいことが分かり、その代わりとして紹介されたのが、教授が開発した新品種「ヤマソービニオン」だった。これは、国内の山ぶどうに赤ワインによく使用される「カベルネ・ソーヴィニヨン」を交配したもの。山ぶどうの特性を生かし、栽培しやすいように改良された品種だ。夏の高い湿度や冬の厳しい寒さにも耐えられる強さがあり、栽培の方法によれば平地で作業でき、腰の高さで行えるため、すでに高齢化が始まっている宮田村の農家でも行えるという利点があった。
1998年(平成10年)に、まずは50アールの農地に500本の「ヤマソービニオン」を植栽。そこで収穫された「ヤマソービニオン」は本坊酒造のマルス信州蒸溜所で醸造され、翌年に312本のワインが誕生した。
糖度計を使っての糖度検査の様子
現在、3ヘクタールほどの耕作地で6軒の農家が「ヤマソービニオン」を作っている。品質を揃えるために、1本の枝にならせる房は2つまでとし、糖度は20度以上。そういった育成の指導も本坊酒造が行い、品質の向上を図っているという。
生食用のぶどう以上の丁寧さで大切に作られた「ヤマソービニオン」は、毎年10月になると「本坊酒造 マルス信州蒸留所」で醸造。通常のワインよりも1か月ほど遅い年末には店頭に並ぶ。
「ヤマソービニオン」は毎年16トンほど収穫
宮田村の人々が協力し合って育て続けるワイン「紫輝」は、今や宮田村を代表する名産品へと成長し、全国にそのおいしさだけでなく、6次産業化のモデルケースとしても知られるようになった。