3,000m級の山々に囲まれ、清らかな水に恵まれた長野県は、地ビール(クラフトビール)の激戦地である。中でも「南信州ビール」は、平成8年(1996年)に、長野県第一号の地ビール(クラフトビール)メーカーとして誕生。以来、中央アルプスの麓、標高800mにある駒ヶ岳醸造所で、ビール造りが行われてきた。
左から定番の三種と「アップルホップ」「宝剣岳Ale(エール)」
「南信州ビール」のコンセプトは、地元との共存と発展。地ビール(クラフトビール)の「地」の意味を追求した結果、地元の素材をできるだけ使用したビール造りを目指しているという。創業当時より、水は中央アルプスの雪解け水を豊富に含んだ地下120mより汲みあげた伏流水を使用。また、25年という長い歴史の中で、地元で作られたリンゴや大麦などを使用した新商品も生み出してきた。
もちろん、素材から自分たちで作れば思い入れの強いビールを造ることもできるが、専門家である農家にお願いしたほうが確実においしいものができるからだ。また、地元へ新しい文化を生み出し、活性化につなげていきたいという思いがあるという。
独自の製法によりこれまでにない製品を生み出している
平成20年(2008年)には、品質的には全く問題ないけれども、サイズが小さかったり形が悪かったりといったスーパーに並べることのできないリンゴを原料にした「アップルホップ」を発売した。最大の特徴はリンゴの品種ごとに製造ロットを分けている点だ。様々な種類のリンゴをブレンドせずに、つがる、シナノスイート、紅玉、王林、シナノゴールド、ジョナゴールド、ふじ、秋映などと時期によってそれぞれ1000リッター単位で仕込み、ラベルにはリンゴの種類を表すシールを貼って販売している。
リンゴと一口に言っても、品種によって色も酸味、甘味、コクも驚くほどに異なる。地元に暮らす人々のように「アップルホップ」を飲んで、他の地域の人たちにも品種を当てられるくらい、リンゴを知ってもらいたいという。
平成29年(2017年)には、念願の駒ヶ根市や宮田村で収穫した大麦「小春二条」を使用した「宝剣岳Ale(エール)」が誕生。現在は、すべて地元産の素材を使用したビールを目指して、さまざまな取り組みを行っているという。
豊かな自然に囲まれた「南信州ビール」駒ヶ岳醸造所
「南信州ビール」が目指すのは、おいしいというのは大前提としてありながらも、飲んだ時に南信州の風景が思い浮かぶようなビールだという。ビールの仕込みは1日でできてしまうが、それまでにどれだけの地域への気持ちがあるか、そしてどのようなコンセプトで行うかが重要になってくる。創業当時4種類だったビールも現在は20種類以上と増え、「南信州ビール」ならではの味わいを提供。地元とともにあり、その先を見据えた経営により信州の地ビール(クラフトビール)をけん引し続けている。
目を閉じて一口飲めば広がる、中央アルプスと南アルプスのダイナミックな風景、クリアな空気、清涼な水。この時期、ビールで南信州の大自然を感じてみるのもいいだろう。