トラベル&ライフ2021.2-3月号の特集「高山・白川郷」の取材で訪ねた渋草焼の製造・販売を手がける「渋草焼芳国舎」。本誌で紹介した通り、江戸末期に始まった渋草焼の伝統と技術を今も守り続けています。その一方で、技術を磨きながら新たな作品作りにも取り組んでいます。
上二之町にある「渋草焼芳国舎」
そのひとつが「青磁染付け」です。青磁染付けは草色と青の模様が調和した美しさが持ち味で、トップの写真の皿のほか、大皿や花瓶、フリーカップなどがあります。大まかな工程は以下の通り。
素焼素地に青磁釉を重ね塗りして厚くし、模様を描く部分の青磁釉を特殊なカンナで掻き落とします。素焼素地面が出てきたら紙やすりなどで滑らかにして絵付けに進みます。手描きで絵付けをし、絵付けができたらその上に透明の釉薬をかけて約23時間かけて本焼きをすれば完成です。
「フリーカップの場合、全体に青磁釉を塗ってから、絵付けをする部分を丸くくり抜きます。青磁釉は温度が高くなると流れやすくなるので、最初の頃は円の上部の青磁釉が下に流れて絵付けにかぶってしまいました。そのため、青磁釉が流れないように繰り返し調整をしました。それが大変でしたね」と話すのは、芳国舎代表の松山正和さん。
青磁釉と透明の釉薬では溶ける温度が違うので、ひとつの器に塗って焼くのは至難の業。温度が上がっても流れない青磁釉を調合するのに何年もかかったといいます。
「常識に反しているので、誰もやりません。だけど、やってみたいと思ってね。全体に塗ってそのまま焼けば青磁の商品になるけれど、それでは面白くないでしょ」と松山さんは笑います。
上品な絵柄の箸置きも人気
手作り、手描きが大きな特徴の渋草焼。最近では箸置きやヘア飾りなども作られるようになりましたが、基本的には一般食器を作っています。一般食器製作のために欠かせないのが、模様のパターンとなる「置きめ」です。揃い急須と茶碗が割れてしまった時に、補充するために欠かせない道具になります。
「手作り、手描きの渋草焼は値段が安くはありません。高価ということもあり、大切に長く使っていただいています。ですから、購入して何十年も経ってから、欠けたり割れたりしてしまい、補充に来る方もいらっしゃいます。40年前でも50年前でも置きめがあるので模様が再現できます。もちろん、寸法も同じに作ることができます」。
愛着を持って上質なものを使い続けていく......そうした丁寧な暮らしは、使い捨てが主流といわれる今の時代には、なによりの贅沢かもしれません。