能登では、冬が訪れ、初雪の知らせが届くころになると雷が鳴る。これは「ブリ起こし」といわれ、「天然能登寒ぶり」のシーズン到来を知らせてくれる合図。港では次々に丸々と太ったブリが水揚げされ、魚市場は一気に活気づく。
小寒から大寒までの間に獲れたブリを「寒ブリ」という 写真提供=能登町ふるさと振興課
ブリは6~7月頃北上し、夏から秋には北海道の海域で過ごす。10月には南下し、その一部が富山湾に入る。入り江になっている富山湾は、山々から栄養素が流れ込み、プランクトンや小魚も豊富。ブリはここでたっぷりと栄養をとって、脂ののったもっともおいしい「天然能登寒ぶり」に育っていくという。
内浦三大漁港のひとつ宇出津新港 写真提供=能登町ふるさと振興課
「天然能登寒ぶり」の漁は、戦国時代末期から続くといわれる定置網で行われる。富山湾に面する海域の定置網は、漁場から漁港までの距離が2kmほどと近く、鮮度の高いままブリを水揚げすることができるのだ。漁獲時期は、11月から2月まで。中でも7kg以上のものは石川県によって「天然能登寒ぶり」としてブランド化されている。
さらに、能登町の宇出津港では、12月上旬から1月末に水揚げされ、10kg以上で品質と鮮度のよいブリには、「宇出津港のと寒ぶり」のタグがつけられる。
「御用鰤」として加賀藩へ献上された「天然能登寒ぶり」 写真提供=石川県観光連盟
「天然能登寒ぶり」は、富山県の「氷見の寒ブリ」とともに高級魚としてその名を知られている。極寒の日本海にもまれて身が引き締まったブリは、脂ののりもよく、絶品。
その中でも厳選された「宇出津港のと寒ぶり」は、大きく腹回りもしっかりしており、見た目も王者の風格。腹だけでなく、背の部分までしっかりと脂がまわり、刺身が醤油をはじくほど。口に含めば甘くとろけ、濃厚な脂の旨味はほかにはないおいしさだ。新鮮なうちは刺身やしゃぶしゃぶで、日にちが進めば、照り焼きや煮つけ、焼き物など、さまざまな味わいで、余すところなく楽しめるのも魅力だ。
脂ののった寒ブリと甘みが増した大根がおいしいブリ大根 写真提供=石川県観光連盟
毎年、1月の中旬には、「のと寒ぶりまつり」が開催され、宇出津港から直送された鮮魚市を開催するほか、寒ブリの解体、海鮮鍋、海鮮丼など、能登の魚介が味わえるブースも並び、多くの人で賑わうが、2021年は残念ながら中止。祭りに参加することはできないが、能登の風景に思いを馳せながら、旬の「天然能登寒ぶり」「宇出津港のと寒ぶり」を、ぜひこの時期に味わってみたい。