カニの水揚げ日本一の鳥取で味わう松葉がに

トラベル＆ライフの人気連載、日本全国の至高の逸品を訪ねる極め旅。歴史を重ねて生み出される熟練の技や、変わることのないこだわりの数々―。

今回は冬の鳥取を代表する味覚、松葉がにをご紹介しよう。これは、成長した雄ズワイガニのことで、11月から３月までの期間限定の希少品だ。刺身をはじめ焼きガニ、カニすきなど濃厚にして繊細な味わいが楽しめる。

なんと初競りで500万円
ギネス世界記録に登録

水揚げは深夜の作業［写真提供：鳥取県］

鳥取県産松葉がにの中でも、最上級なのが特選とっとり松葉がに「五輝星」。これは2015年に誕生した新しいブランドで、大きさは甲幅13.5㎝以上、重さは1.2㎏以上、脚がすべてそろっている完全な形、そして鮮やかな色合いで、ぎっしりと詰まった身入りの5つの基準をクリアした、優れたものだけがその名を与えられている。「五輝星」は、まさに鳥取が誇る冬の味覚の王者なのだ。

2015年の初競りでは70万円、翌年には130万円、2018年には200万円のご祝儀額で落札され、「競りで落札された最も高額な蟹」としてギネス世界記録となった。2019年には賀露港で500万円が出て、これが現在のギネス世界記録となっているが、それにしてもたった１匹にこうした値段が付くのだから驚きだ。

200万円で落札した松葉がにを手にする浜下さん（2018年）［写真提供：鳥取県］

最初のギネス記録となった200万円と、さらに500万円の松葉がにを落札したのは、市内賀露（かろ）町の賀露港で海産物店を営む仲買人の浜下哲爾さん。
「天候にもよりますが、カニ漁の船は午前3時頃に帰港して水揚げします。競りは朝8時からで、数秒で判断して落札します。落札の見極めは、本能ですかね。アドレナリンが出っ放しです」と浜下さん。
高額で競り落としても実際は身入りが悪かったこともあるというから、まさに真剣勝負といえる。ちなみに、おみやげで松葉がにを購入する際のコツを聞くと、「基本的に甲羅が固くて重たいのがいいですが、茹で時間が難しいので、私は生ではなく茹でガニをおすすめしています」。

贅沢なフルコースを老舗旅館で堪能

「味覚のお宿 山田屋」の松葉がにフルコース（24,000円～）のお造り

その貴重な松葉がにを、賀露港に面した「味覚のお宿　山田屋」で賞味した。江戸時代中期の、享保8年（1723）創業の老舗旅館である。注文したのは、松葉がにのフルコース。まずは、お造りから。氷の上に盛られた刺身は、わさび醤油でいただく。ねっとりと舌の先にからみつくような食感と、絶妙な甘さが調和している。想像以上に甘い。カニの身がこれほど甘いとは...。

その甘い身に、さらに香ばしさが加わるのが焼きガニだ。炭火で焼くこと数分。なんともいえない香ばしい香りが、鼻腔をくすぐる。そのままか、好みでスダチを搾る。味と旨みが、さらに濃さを増す。言葉はいらない。ひたすら無言で、食べ続ける。

そして、カニすき。昆布と、鳥取の醤油ベースの秘伝の出汁で煮ること数分。紅色に変わったところで、カニすき専用のポン酢に付けていただく。うーん、なんという旨さだろう。ふくよかにして、カニ本来の風味が広がる。カニの脚には切れ込みが入っているので、食べやすい。

〆は、雑炊。ご飯を入れて、ほどよく煮えたところで溶き卵を回し入れる。ポン酢を少し加えて食べると、実に滋味あふれる味わいだ。カニの活きの良さもさることながら、老舗ならではの料理人の技も光る大満足のひとときだった。

賀露港から車で40分ほどの浦富海岸は山陰有数の景勝地

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