穏やかな瀬戸内の海に大小の島が点在する岡山県備前市の日生(ひなせ)。古くから漁師町として栄え、特に牡蠣の養殖が盛んで、海に牡蠣筏の浮かぶ様子は日生を代表する風景となっている。
海草の一種である「アマモ」は、水質を浄化する性質がある
「日生がき」の特長は、通常の牡蠣は種付けから2~3年で大きくなるが、日生で育つ「日生がき」は、1年で成長するという点だ。それは、35年以上続く"里海づくり"が大きく貢献している。
里海とは「人の手を加えることにより生物生産性と生物多様性が高くなる沿岸海域」のことで、日生では海のゆりかごと呼ばれる"アマモ場"の再生活動や海洋ごみの取り組みなど、漁師をはじめさまざまな世代の人たちとのネットワークにより海の環境を整えている。
岡山は牡蠣の生産量が全国3位
「日生かき」は、食べてみると大ぶりの身は柔らかく、濃厚でほんのりと甘みもある。また、熱を加えても縮まないため、どんな料理にしてもぷりぷりでみずみずしい味わいが楽しめる。
クレーンとウィンチで「垂下連」を巻き上げて収穫する
「日生かき」はマガキという種類で、垂下式の養殖が行われている。収穫時期は、10月末から翌年の3月いっぱいで、3月に最後の出荷が終わると、すぐに次の年の準備が始まる。
牡蠣の種が着床して育つための「盤通し」を筏につるし(採苗)、着床後は浜辺などにある抑制棚で翌年の4月まで置いておく(抑制)。と同時に、今年の冬の準備も行われ、4月までに、前の年に抑制棚に寝かしておいた牡蠣約30枚を6~9mのロープのよじれに挟み込んで「垂下連」を作り、これを牡蠣筏に800本ほど吊り下げて牡蠣を育てる(本垂下)。
こうやって大きく成長した「日生かき」は、毎年10月20日頃に筏から引き上げられる。瀬戸内海で育つ一年ものの「日生かき」はこれからが旬。ぜひ一度は食べてみたい逸品である。
日生でしか食べることができないお好み焼き
焼牡蠣、牡蠣フライ、牡蠣鍋など、牡蠣を使った料理ならたくさんあるが、日生を訪れたら一度は食べたいのが「カキオコ」だ。これは、地元でとれた「日生かき」がたっぷり入ったお好み焼きのこと。
そもそも漁師の奥さんが売り物にならない小さな牡蠣や傷のついた牡蠣をお好み焼きに入れたのがきっかけで生まれた漁師飯だ。ジューシーな牡蠣と濃厚なソースとの愛称は抜群。どこをたべても牡蠣が入っている、牡蠣の風味豊かな味わいはくせになるおいしさだ。
現在、日生には「カキオコ」が食べられる店が15軒あり、それぞれが個性豊かな味わいを提供。この贅沢なおいしさを求めて、旬の季節になると全国から多くの人が訪れるという。