人吉・球磨地方は熊本県の南端、険しい九州山地に囲まれ、日本三大急流の一つとして知られる球磨川が流れる盆地にある。寒暖の差が激しく、豊かな自然と良質な水に恵まれた大地は、米作りに適した環境であり、古くから米どころとして知られてきた。この良質な米を使用して作られているのが「球磨焼酎」である。
さまざまな味わいでファンを魅了する「球磨焼酎」
「球磨焼酎」が作られるようになったのは、室町時代のことといわれる。以来500年にもわたってその技は受け継がれ、現在「球磨焼酎」は、「米(米こうじを含む)を原料として、人吉球磨の水で仕込んだもろみを人吉球磨で単式蒸留機をもって蒸留し、びん詰めしたもの」と定義されており、人吉・球磨では27の蔵元が個性豊かな200以上のブランドを生み出している。
それぞれの蔵元では、趣向を凝らした味わいが生み出されている
ひと口に「球磨焼酎」といっても、蒸留方法は2つある。蒸留器内の気圧を下げて、低温でもろみを蒸留する「減圧蒸留」は、マイルドですっきりとした味わいに。一方、気圧を変えずに蒸留する「常圧蒸留」は伝統的な蒸留方法で、独特な香りと豊かな味わいを生み出す。また、貯蔵法によっても味わいは変わるので、いろいろな味を試してお気に入りを見つけるのも楽しいだろう。
左が「チョク」、右が「ガラ」。「ガラ」には二合五勺が入るように造られている
飲み方はストレートのほか水割り、お湯割り、ロック、ソーダ割りなどさまざまに楽しめるが、せっかくだから球磨に伝わる飲み方の「直燗(じきかん)」で味わってみたい。これは、「球磨焼酎」専用の酒器「ガラ」と小ぶりの猪口「チョク」を使用するもの。「ガラ」を直接直火にかけ温めることにより、香りが強調され口当たりがまろやかになる。また、「チョク」は小ぶりで燗酒独特のにおいが鼻にツンとこないため、「球磨焼酎」をさらにおいしく楽しむことができるのだ。「ガラ」「チョク」は、人吉・球磨地方だけで使用され、白色の有田焼のものが好まれているという。
蔵元同士が支えあい「球磨焼酎」ブランドを守り続けている
1995年には、世界貿易機関(WTO)の「地理的表示の産地指定」を受け、ボルドー産のワイン「ボルドーワイン」やスコットランドのウィスキー「スコッチ」のように、世界的な銘酒として知られるようになった「球磨焼酎」。人吉・球磨の大地から生まれたこだわりの味わいは、国内外のファンから絶大な支持を受け、愛され続けている。
今年7月に発生した「令和2年7月豪雨」において「球磨焼酎」の蔵元にも多大な被害が及んだことは記憶に新しいが、この難局を乗り越えようと人吉・球磨の蔵元が一丸となって復旧に力を注いだという。
この時期、人吉・球磨応援のためにも銘酒「球磨焼酎」をじっくりと味わい、そのおいしさに蔵元の情熱を感じてみてはいかがだろう。