鎌倉時代の1274年に日蓮聖人によって開かれた身延山久遠寺(みのぶさんくおんじ)。
亡くなるまでの9年を過ごしたこの地は、法華経の聖地として今も多くの人が訪れている。
久遠寺へは新宿から高速バスに乗ると約3時間30分で着く。バス停「身延山」で降り、旅館やみやげもの店などが立ち並ぶ参道を5分ほど歩くと、身延山の玄関ともいえる三門に着く。
三門は堂々とした佇まいで、圧倒的な存在感がある。規模が大きく、間口13間、奥行き5間、高さ21m。総檜造りで、2階部分にあたる楼内には釈迦如来像と十六羅漢像を安置する。建立は1642年だが、度重なる火災で焼失し、現在の三門は1907年に再建されたもの。
三門をくぐると、木立の中をまっすぐに石段が続く。見上げるほどに長く続く石段に一瞬ひるむ。この石段は菩提梯(ぼだいてい)といい、菩提は覚り、梯はその上の段階にのぼるための手引きという意味で、のぼり切れば悟りの境地に達するという意味を持つ。階段は287段で、お題目の「南無妙法蓮華経」の7文字になぞられ、7つの区画に分けられている。
意を決してのぼり始める。最初は余裕があっても、次第に息が切れて足が重くなる。それでも一段、一段のぼっていくうちに、無心になっていく。ちなみに、西谷にある駐車場から斜行エレベーターがあるので、階段をのぼらなくても境内に行ける。
広大な山内には見どころが点在している。
菩提梯をのぼると正面に見えるのが本堂。千鳥破風を配した風格ある現在の建物は、昭和60年に宗祖700遠忌記念事業の一環として建造された。
その東隣に立つ祖師堂は、日蓮聖人の御霊を祀る御堂で、"聖人の魂が棲む"という意味の棲神閣(ししんかく)とも呼ばれている。祖師堂には天女や鳳凰、白鷺など色鮮やかな彫刻が施され、久遠寺の伽藍の中でも華やかさは随一だ。
標高1153mの身延山山頂にある奥之院思親閣(おくのいんししんかく)も訪れたい場所。日蓮聖人は風雨を厭わず、度々身延山に登っては、山頂から故郷の千葉県小湊の両親を追慕した場所として知られている。山頂まではロープウェイが運行しているので手軽に行けるのもうれしい。眺望もよく、晴れた日は富士山を一望できる。
身延山では1年を通してさまざまな行事が行われている。
なかでも盛大かつ重要な行事のひとつが開闢会(かいびゃくえ)。約740年前に日蓮聖人が山深い身延山に入山し、草庵を構えたのが6月17日。開闢会はその記念の日を祝う法要だ。
見どころは御入山行列で、毎年6月17日に近い日曜に行われ、今年は6月18日に行われた。うちわ太鼓を鳴らす学僧を先頭に駕籠に乗った法主猊下や奴、万燈講の信者など総勢約400人が総門から三門まで練り歩く。行列の後に草庵跡で営まれる法要も必見だ。
いつもは静寂な聖地も、この日ばかりは読経と雅楽の音色が響き、法要の華やぎに包まれている。