トラベル&ライフ6-7月号の特別企画は佐賀県唐津市。古城跡のキャンプ場と呼子のお魚処「玄海」の絶品イカ活き造りを紹介したが、その「玄海」のイカがどうして元気でイキが良いのかをご説明しよう。
午前3時の呼子港
イカ漁を終えた漁師が「玄海」裏手にある桟橋に帰ってくるのは、午前3時。周囲は真っ暗だ。
船底の生簀からイカをポリ箱に移す
漁師は手際よく船底の生簀から10杯ほどのイカをポリ製の箱にすくい上げると、それを持って長さ約10m、幅は1mもない木製の架け橋を疾走する。
目方をはかって「玄海」の生簀に運ぶ
そして秤にかけてイカの目方を量はかり、伝票に書き込んだらすぐに「玄海」の生簀にイカを放つ。
この作業を繰り返すこと数回。すべてがスピーディーであわただしいが、それは水揚げしたイカの鮮度を保つためなのである。
イカを運ぶためのポリ製の箱は、ポリ箱と呼ばれ、四角形で底が平たくなっている。一般的に魚を移す際にはたも網を使うことが多いが、たも網だと網の底が丸くなっているので、イカの甲の部分が曲がって弱くなってしまう。しかしポリ箱なら、底が平たいので甲をまっすぐにのばして元気なままに運べる...というわけである。
また、たも網を使うと、擦れることでイカの体表にあるぬめりが取れてしまうが、ポリ箱ならばぬめりが取れにくい。イカのぬめりは、いわば洋服のようなもの。元気に生きるために必要なものなので、大事に扱うのだ。イカ漁船から店の生簀に運ぶときだけではなく、料理人が生簀から厨房に移すときもポリ箱を利用する。
イカを元気に生かす工夫は、漁師だけではない。料理店も同様だ。呼子では「玄海」をはじめどこの料理店でも生簀に海水を汲み上げて利用している。
こうして大切に運ばれたイカを、「玄海」では3人がかりで調理している。一人が上身の裾から先端まで包丁を入れて上身をめくり、墨袋と内臓、耳、軟骨、足を取り除く。それを受けて、2人目が上身の薄皮をふき取る。そして3人目が上身の裏側から縦に包丁目を入れ、さらに横に1cm弱間隔で切って耳や軟骨、足とともに皿に盛りつける。
こうした素早い動きは、すべてイカの身の艶を保つためなのである。