オランダのアルコールといえばハイネケンやグロールシュなどのビールが有名ですが、王室御用達のオレンジビターズや、さくらんぼのアロマが漂うオーガニックワイン、老舗レストランの自家製リキュールなど、隠れた銘酒も豊富です。なかでもぜひ味わっていただきたいのは、ジンの起源になったイェネーファ (jenever)です。
日本ではダッチジンとも呼ばれるイェネーファは、ジンの起源となった蒸留酒です。 もともとは17世紀に、ライデン大学医学部のシルヴィウス教授により、熱帯性熱病の薬として開発されました。オランダが海上帝国として名を馳せた黄金時代、イェネーファは船乗りや入植者にとって欠かせない薬用酒でした。
解熱・利尿用の薬用酒として普及したイェネーファは、次第にその爽やかな味わいが人気を博し、嗜好品として愛飲されるようになりました。そして1689年、英国王の地位を継承したオラニエ公ウィリアム3世とともに北海を渡り、イギリスでジンと呼ばれるようになったのです。
イェネーファの名前の由来は、香り付けに用いられるイェネーファベッセン(jeneverbessen)です。英語ではジュニパーベリー、日本では西洋ネズの実と呼ばれています。中国でも古くから漢方の生薬として利用されてきました。
イェネーファの原料は大麦やライ麦です。麦芽を発酵させた醪(もろみ)を2、3回蒸溜してモルトワインを造り、さらにイェネーファベッセンを加えて再蒸溜します。大麦麦芽を多く使うため、ジンよりも麦芽香が強くコクのある味わいです。イェネーファベッセンの爽やかなフレーバーも特徴です。
連続式蒸溜器で造られ、すっきりとした飲み口のヤング・イェネーファ(jonge jenever)、単式蒸溜器で造られ、発酵で生じた風味を堪能できるオールド・イェネーファ(oude jenever)、モルトワインを51~70%含み、オーク樽で数年間熟成されるウッディーなコーレンワイン(korenwijn)と、大きく3種類に分類されます。
イェネーファはチューリップ型のリキュールグラスにたっぷり注がれます。最初の一口は手を使わずに、口を直接つけて飲むのがオランダ流です。甘く軽い飲み口のものから、風味のあるウイスキーに近いものまで、まずはストレートで飲み比べてみてください。コップストート(kopstoot)は直訳すると「頭突き」で、イェネーファで熱くなった喉にラガービールを流し込むスタイルです。
アムステルダムでイェネーファを味わうなら、ぜひ「Wynand Fockink」に足を運んでみてください。ダム広場から150mほどの小路に佇む、隠れ家的なテイスティングルームです。蒸留所直営のバーで幅広い種類のイェネーファを味わい、さらにお気に入りのボトルはリカーショップで購入できます。
1679年創業のWynand Fockinkは、オランダ王室御用達の蒸留所として、18世紀には国内最大規模の売上シェアを誇りました。19世紀にはベルリンやウィーン、パリなどにも商館を構えています。1954年からはLucas Bols社の傘下に入りましたが、昔ながらのイェネーファ造りが継承されています。
かつてオランダ東インド会社の商船が、はるばるアジアから運んだハーブや香辛料、砂糖などの原料を用いて、アムステルダムの蒸留所は発展の道を歩みました。17世紀の黄金時代に想いを馳せながら味わう琥珀色のイェネーファは格別です。
Wynand Fockink
住所: Pijlsteeg 31, 1012 HH Amsterdam
定休無、14:00-21:00
トラム2, 4, 11, 12, 13, 14, 17, 24番Dam下車徒歩4分