有田焼は2016年に創業400年を迎えました。日本でも有数の知名度を誇る磁器の一つ有田焼。透明感のある肌と、多彩な文様、美しい紺色の世界が広がる染付など、今も日本人の心をとらえて離しません。
400周年の節目を迎えた有田焼が掲げるテーマは、「ARITA EPISODE 2 - 有田焼400年 新しい時代のはじまり ―」 次の100年に向けた新しいチャレンジ。
芸術性の高い器や壺も魅力的ですが、もとは人々の生活に根差した器。その一番の活用法は「食器」といえるかもしれません。食器は料理を引き立てる、美食には欠かせないもう一つの主役。
私たちタベアルキストも、ARITA EPISODE2に合わせて、食の視点から有田焼の過去と未来を感じられる旅をプランニング。磁器の町 有田で器と食の魅力を追いかける2泊3日の旅へでかけました。
*「タベアルキスト」とは…
「食べる幸せ 探す喜び」をモットーに、食の水先案内人として、食べ歩きを軸とした食分野への様々な貢献活動を行っている団体です。
有田町中心部に向かう町の入り口にあるギャラリー有田は、旅の最初に訪れたいお店。
扉を開けると出迎えてくれるのは、整然と並んだ2000客を超えるコーヒーカップ。こちらでは、このカップの中から気に入ったものを選び、コーヒーをいただくことができます。
デザインはもちろん、質感もそれぞれ異なるコーヒーカップは、有田焼の幅の広さを一目で教えてくれます。様々な器を実際に手に取り、自分好みの器を知るところから旅はスタートです。
選んだのは染錦のコーヒーカップ。紅と紺のコントラストが映える、華のあるデザインのものを選んでみました。金のチェック柄がどことなくヨーロッパを思わせます。
この器に注がれる、氷温熟成された豆を使用したコーヒーは、程よい苦みと爽やかな酸味でキレのある一杯。お気に入りのカップとコーヒーでゆったりとした時間が過ぎていきます。後ろに映っているのは、一緒にいただくスイーツ、「ごどうふ黒蜜きな粉」の入った器。こちらも、もちろん有田焼。フタを開ける前から期待感が高まります。
フタを開けると、大振りにカットされたごどうふと、たっぷりのきな粉。これに黒蜜をまんべんなくかけていただきます。 ごどうふは、有田の名物の一つ。豆乳にくず粉を混ぜて固めた豆腐で、ムッチリ、プルルンとした食感が特徴です。
プリンのように滑らかで、ムッチリとした独特の食感は、普通の豆腐とは全く別物。豆乳の香りはあまり強くなく、クセのない味わいは、豆腐好きはもちろん、豆腐スイーツは少し苦手という人でも美味しくいただけます。
ごどうふはスイーツだけでなく、もちろんおかずとして食べても美味。生姜を効かせたごまだれで食べるごどうふは、冷ややっことはまた違う美味しさです。このほかにも、ごどうふカツカレーなども提供されており人気を博しています。
■ギャラリー有田
佐賀県西松浦郡有田町本町乙3057
TEL:0955-42-2952
【営業時間】9:00~19:00 年中無休(元旦のみ休み)
次の100年に向けた、新しい有田焼を知るため、現代的なデザインの有田焼を制作している、アリタポーセリンラボの工房を訪れました。販売店舗は10月1日にリノベーションが完了し、有田モダンを感じられる魅力的なお店に生まれ変わりました。
アリタポーセリンラボの作品の特徴は、古典的な文様を、色数を抑えた表現で、現代にマッチする器として再提案すること。 右側がいわゆる古典的な有田焼で、同じ図柄を3色で表現したものが左側です。色数を抑えることで、全体がスッキリとまとまり、洗練された印象になることがよくわかります。
同じ文様も、色を変えるだけで多彩な表情を見せます。アリタポーセリンラボでは、春夏秋冬の色をそれぞれ定めており、色の変化で日本ならではの季節感を表現しています。
色のバリエーションは増えても、文様の型紙は昔のものをそのまま使用。文様はそれぞれに意味があり、各窯元で独自デザインを持っています。そのため、海外で見かけても、職人なら自分の窯のものがわかるとか。色と文様の組み合わせで様々なおもてなしができるので、ぜひ相談をしてみてください。
何重にも描く細い線も有田では手書き。他産地では機械に置き換わってしまい途絶えつつある技も有田ではしっかりと継承されています。機械化が進んだ現代でも、最後の微調整は職人の手で行うこだわり。職人の手による、少量多品種生産だからこそ可能な技術が今でも有田にはあります。次へとつなげるため、変えるべきは変え、残すべきものは残すというスタンスで一本芯が通っています。
伝統を守るために、新しいことに挑戦し続けるアリタポーセリンラボ。モダンなデザインの中に宿る職人の技は、次の有田100年を感じさせる耐えることのない情熱を感じさせます。
■アリタポーセリンラボ旗艦店
佐賀県西松浦郡有田町上幸平1-11-3
TEL:0955-29-8079
【営業時間】11:00~17:00 定休日/火曜日
有田駅から少し歩いたところにある、日本料理 保名(やすな)
創業50年を超える老舗は、ギャラリーや茶室なども備えられており、風格を感じさせる佇まいのお店です。
ご主人が集めた、アンティークの器も展示されています。いずれもかつて伊万里の港からヨーロッパへと旅立ち、再び日本へ帰ってきたもの。輸出用の、少しアレンジされた独特のタッチが印象的です。
おすすめのお料理は、お昼限定の陶箱弁当。フタに描かれた文様はすべて「寿」という文字の変形書体。 焼く過程で大きさが縮んでしまう陶器は、蓋つきのものを作ることが難しく、特に四角い形は角の部分の処理の難易度が高いそうです。
保名の陶箱は、2重、3重に重ねられるほど精度が高く、有田の職人技を感じることができます。
フタをパカリと開ければ、旬の食材がぎっしりと品よく収まっています。数えてみると、この日はなんと21種類もの料理が入っておりました。その他にお造りや、椀物、混ぜご飯、ごどうふなども付いてお値段は2500円。一品、一品丁寧に作られた料理や、ご主人が毎日買い付けてくる魚介のクオリティも高く、非常に満足度の高いお食事に仕上がっています。
■日本料理保名
佐賀県西松浦郡有田町本町丙833-3
TEL:0955-42-2733
【営業時間】11:30~14:00 17:30~19:30(不定休)
佐賀の食を語るうえで外すことのできない、佐賀牛。西有田地区では昔から畜産が営まれており、佐賀牛の生産拠点の一つとなっています。次の有田100年の食に欠かせない食材の生産者の方を訪ねてみることにしました。
案内してくださったのは、福野畜産の福野隆繁さん。佐賀牛の肥育農家で、約220頭を飼育されています。
有田地域で育てられている牛はもともと「葉隠れ牛」と呼ばれていましたが、葉隠れ牛のみでは安定した供給が難しいため、30年ほど前に佐賀牛に一本化され今に至ります。
佐賀牛とブランドされる肉は、BMSと呼ばれるサシの入り方の指標が7以上(A5等級もしくはA4の最上級)と厳密に定められており、その品質を担保しています。昔は3割ぐらいしか格付けされませんでしたが、生産者の努力により今では5割ぐらいは佐賀牛として認定されます。
牛の肥育はとても繊細。暑さに弱い牛のために、こまめな温度管理で寒暖差を少なくし、ストレスのない環境を整えます。また、牛舎を清潔に保ち、病気を予防することも重要な作業。日々丁寧に牛の世話をしていくと、自然と肉質の状態などもわかってくるそうです。
エサは1頭当たり、1日約10kg。専用の配合飼料のほかに、佐賀県産の稲わらも活用しています。稲わらを食べて大きく育ち、その過程で出る糞はたい肥となって、田畑で次の作物の糧となるサイクルが出来上がっています。
和牛の人気は国内ならず、海外までも広がり、佐賀牛もアメリカや香港へと輸出されています。高まる人気の一方、飼料の高騰や、肉の部位の人気が偏ることなど、課題は山積。とくに生産者が減少の一途を辿っていることが目下の大きな悩みだそうです。誇りをもってできる面白い仕事だから、新しい後継者を育てたい。それが次の100年に向けての目標と福野さんは語ってくださいました。
■佐賀牛についての問い合わせ
JA佐賀 畜産販売課
TEL:0952-25-5211
【営業時間】9:00~17:00(土日祝日休み)
山内バイパス沿いに立っている、高島豆腐店は作り立てのごどうふを購入できる工場併設の直売所。
昭和60年頃までは法要の時ぐらいにしか出てこない精進料理としての位置づけでしたが、その後スーパーなどの物流網が整い、日常食へとなっていきました。なので、郷土料理という設定は後付けだとか。
今では、有田エリアのスーパーや飲食店でおいてない店は無いというほどに生活に根付いています。
ごどうふ作りはすべて手作り。豆乳とくず粉を秘伝の配合で混ぜ合わせ、時間をかけて練り上げます。くず粉が入った豆乳は粘りがあり、混ぜるのは大変な力作業。
ごどうふ独特の固さは、お店ごとに個性があり、その硬さの感覚を体で覚えこむのだそうです。原料は家庭でも作れるものですが、配合の塩梅や練り上げの作業の大変さから、有田の奥様方もお店で買われることが大半だとか。
型に流し込んで冷やし固めれば完成。均等に切ってパックに詰めていきます。
やわらかく、ぷるんぷるんと逃げるごどうふを型を崩さないよう、水気を切って詰めるのも技術のいる仕事。
一見当たり前の作業にも職人の技が光ります。ごどうふ以外に、普通のお豆腐はもちろん、油揚げや厚揚げなども製造しています。
店舗限定商品として、黒蜜ごどうふも。地元の高校生がデザインしたパッケージデザインは有田焼の文様を取り入れた有田らしさあふれるお土産です。
ごどうふは美味しく食べられる時間が非常に短く、時間がたつほど固くなってしまいます。賞味期限は、わずかに製造から4日。もっちりぷるるんとした魅惑の食感を味わうには、有田や武雄のお店でいただくのが一番。決して派手で目立つ料理ではないけれど、次の100年もいつも生活の傍らにある名物料理として残していきたい逸品です。
■高島豆腐店 山内工場
佐賀県武雄市山内町大字宮野23451-1
TEL:0954-20-7075
【営業時間】7:00~17:00 年中無休(年始のみ休業)
有田焼と食を巡る旅もいよいよ終盤。自らの手で有田焼を作って、今まで見てきた職人たちの凄さを感じてみよう。ということで訪れたのは有田ポーセリンパーク。
園内にはバロック建築の華、ドイツ、ツヴィンガー宮殿をそのまま再現されているほか、有田焼の体験工房や様々なショップが立ち並んだ、有田焼とお酒のテーマパークです。
園内の有田焼工房では、自分オリジナルの有田焼を作ることができます。素焼きの器に、染付で絵を描く短時間で体験できるコースから、ろくろを使った本格的な陶芸まで様々なコースが用意され、予算や時間に応じて選ぶことができます。
今回体験したのは、「はじき絵付け」と呼ばれるもの。特殊な薬液で絵を描くと、釉薬をかけた際、描いた部分だけが釉薬をはじき、素地の模様として浮かび上がります。
線がつぶれないように、なるべく大きく、太く、大胆なデザインでお願いしますとレクチャーを受けて、いざスタート。
描いてみると、自由に筆を走らせる楽しさと、思い通りに描くことの難しさ、両方を感じます。
まっすぐの線を均一な太さで描くことは難しく、今まで見てきたようなお皿の細かい文様を描くには、どれだけ高い技術が必要なのか痛感させられます。
やってみて初めて分かる職人技のすごさ。薬液で手を真っ青にしつつ、大胆に筆を走らせていきます。
タベアルキストらしく、ナイフとフォークをモチーフにしたデザインを施してみました。洗練された有田の文様のようには到底行きませんが、自分だけのオリジナルデザインはなかなかの達成感。焼き上がりは約1か月後。出来上がりが楽しみです。
■有田ポーセリンパーク 有田焼工房
佐賀県西松浦郡有田町戸矢乙 340-28
TEL:0955-41-0030
【営業時間】平日 10:00~16:00 土日祝 10:00~17:00
器を作ったら、飲むお酒もそろえなければ!ということで向かったのは、有田ポーセリンパークにある、宗政酒造「有田蔵」。
宗政酒造は、日本酒、焼酎、ビールと複数のお酒を一社で製造する、数少ない酒蔵です。 「みやげ屋 蔵」のショップに並ぶ、多種多様なお酒は壮観の一言。看板商品の麦焼酎「のんのこ」、日本酒「宗政」をはじめ、様々なお酒を試飲して、自分好みの一本を探すことができます。
ショップから少し離れたところには、醸造蔵があり、見学をすることができます。所要時間は約30分ほど。宗政酒造の酒造りでは、品質を大きく左右する水は、水源の森百選にも選ばれている黒髪山の水系のものを使用。麦焼酎の原料である二条麦や、日本酒の原料である酒米は全て佐賀県産のものを使用しています。厳しい品質検査も行われ、「The SAGA認定酒」として認定を受けた後、出荷されています。
昔から受け継がれた技術などは残しつつ、製造工程には最新の技術も導入。歴史を重ねながら酒造りもどんどん進化しているそうです。見学専用の通路から、様々なお酒造りの方法を学びつつ、醸造タンクやパッケージングマシンが動く様子などをみることができます。
今回購入したのは、秋限定のひやおろし原酒宗政。ひと夏を超し、頃合いよく熟成されたお酒は、どっしりとした飲み口と、ふくよかな香り。お米の味がぎゅっと詰まった、お酒本来の濃厚な味わいが楽しめます。
■宗政酒造 有田蔵
佐賀県西松浦郡有田町戸矢乙 340-28
TEL:0955-41-0020
【営業時間】平日 8:30~17:30
今年2016年は有田焼創業400年。この有田焼の400年の歴史を語る上で欠かせないのが「柿右衛門窯」です。
17世紀初頭に有田泉山で陶石が発見され、磁器産業が始まりました。当時は有田で作られた焼き物を伊万里港から積み出しされていたため、「伊万里焼」と呼ばれたそうです。
この頃作られていた「初期伊万里」は厚みがあり、「染付」のみの単色の磁器でした。
そこへ、初代・酒井田柿右衛門が1640年代に「色絵(上絵付け)」という釉薬の上に彩色を施す技術に成功したことで、多色彩の作品が作られるようになりました。
1650年代に入ると有田焼がヨーロッパやアジア諸国に輸出されるようになり、1670年頃には「柿右衛門様式」として確立され、ヨーロッパの王侯貴族の間では磁器を持つことがステータスシンボルとなるほど価値を見出されました。ドイツのマイセン窯などにも影響を与えたことは有名です。
柿右衛門窯には、この17世紀の初代から現在の15代に至るまでの柿右衛門窯の歴史や、柿右衛門様式の作品を展示した「柿右衛門古陶磁参考館」を併設しています。
「柿右衛門様式」の特徴である、余白を残して描かれる絵画のような構図はとても美しいです。
第15代酒井田柿右衛門作品 「濁手野罌粟文花瓶」 柿右衛門窯独自の特徴であるのが、「濁手」。 暖かみのある乳白色が特徴の色絵磁器で、「色絵」が生きる素地として1670年代にその製法が完成したといわれています。このやわらかな色の素地が「柿右衛門様式」の余白となるため、作品に独特の暖かみが出てきます。江戸中期にオランダ東インド会社による輸出が減少したことで、一時生産が途絶えてしまいましたが、第12代と第13代の酒井田柿右衛門が古文書より製法を復元し、その陶製技術が認められ、「濁手」は1971年に国の重要無形文化財の総合指定を受けました。
中央が「濁手」作品、左右はそれぞれ天草陶石と泉山陶石を中心にした作品だそうです。 並べてみると「濁手」独特のやわらかな乳白色の素地がよくわかります。
牡丹鳥紋
現在の柿右衛門窯では「濁手」の他にも「染付」・「錦手」・「染錦」と様々な磁器を作っていますが、図案は昔からの型をそのまま使用しているとのこと。
下絵は男性が、色絵は女性がという絵付け作業の分業も昔のまま引き継がれていて、描くにも花びら一枚、葉一枚と制作手順がすべて決まっています。作業を完全分業制にし、アレンジなく同じものを作り上げることがスペシャリストを育て、また伝統を守ることにも繋がっています。
かわいらしい鳥と華やかな花が描かれた「牡丹鳥紋」は代表的なデザインのひとつ。
ティーカップなどの洋食器になっても違和感なく素敵なのは、普遍的なものとして確立された美しいデザインだからこそでしょう。
■柿右衛門窯
佐賀県西松浦郡有田町南山丁352
TEL:0955-43-2267
【営業時間】9:00~17:00 年中無休(年末年始除く)
「明治夢庵」は有田の陶器市のメインストリートである「内山重要伝統的建造物群保存地区」の中ほどに位置します。江戸時代から昭和前期までに建てられたという古い街並みの一角で、「明治夢庵」の建物もレトロな雰囲気の造りです。
店名に「明治」と付いていますが、明治時代の建物ではなく、先代社長の北川明治さんの名前にちなんだものだそうです。
店に入ると目に飛び込んでくるのは、動物のミニチュア。犬や猫、魚、干支など様々なモチーフのアイテムがあります。
これらは「ミクロス」と呼ばれ、先代社長の父上が昭和26年に創業された「北川陶藝」の作るれっきとした有田焼。輸出品として人気を博したことから、海外にも多くのコレクターがいるそうです。
店に入ると目に飛び込んでくるのは、動物のミニチュア。犬や猫、魚、干支など様々なモチーフのアイテムがあります。 これらは「ミクロス」と呼ばれ、先代社長の父上が昭和26年に創業された「北川陶藝」の作るれっきとした有田焼。輸出品として人気を博したことから、海外にも多くのコレクターがいるそうです。
立ち寄ったらぜひデザートプレート(550円)を。
お好みのケーキと選べる自家製のジェラート、焼き菓子がセットになったプレートで、お値段からは考えられないほどの本格的なクオリティー。なんでも店主の奥様はフランスの製菓学校の出身の元パティシエなんだとか。
有田のみどころでもある「トンバイ塀」をモチーフにしたケーキ「トンバイ」は、ピスタチオのムースとフランボワーズをチョコレートクリームで包んだケーキ。 軽い口当たりのムースと口溶けの良いチョコレートクリームがフランボワーズの酸味とマッチします。
焼き菓子も保存料などは無添加。サクサクで抹茶の香るクッキーや、しっとりとしながらも空気を含んだ軽さのあるきめの細かいシフォンケーキは、しっかりとしたフランス菓子作りの技術を感じられます。自家製のいちごのジェラートにいたっては4日間かけて作る手の込みよう。
デザートプレートにあわせていただきたいのがオリジナルブレンドのコーヒー。水質の良い有田の水を生かすようにブレンドされていて、軽い酸味とコクが感じられるバランスの良いコーヒーです。店主がじっくりとハンドドリップで淹れてくれます。あでやかな模様のカップもとても素敵です。
デザートプレートのお皿や、コーヒーのカップが有田焼なのはもちろんのこと、カトラリーまでもが有田焼。手に持ったときの感触が金属とは違う磁器の滑らかさが感じられ、他の食器にも合わせやすいアクセントになりそうなデザインがとても気に入りました。「ミクロス」もそうですが、小さいものの細部まで美しく作るセンスは日本人ならではですね。
■明治夢庵
佐賀県西松浦郡有田町大樽1-5-3
TEL:0955-41-1505
【営業時間】10:00~日暮れまで 火・水定休
有田焼のお皿でイタリアンがいただけるお店が、有田のおとなりである武雄の駅の近くにありました。シェフの梶原大輔氏は、この5月に行われた「世界料理学会 in ARITA」でもスピーカとして登壇されており、佐賀の食材と器を使った料理で佐賀の魅力を発信し続けている、佐賀を代表するレストランです。
外観からしてワクワクしてしまう一軒家レストランです。
ディナーコースは3500円から4種類の価格帯。いずれも地元佐賀や近海の食材を中心に使っているそうです。今回は全10品の「特選イタリアンコース」(5000円)にしました。 アミューズから一番海苔やオキアミ、さらに貝や昆布などを使ったガスパチョなど、イタリアンの枠を超えた創造的な料理でワクワクさせられます。
前菜のひと皿目は<ホタテのストゥファート>。
イカスミで炊いたクスクスをのせ、ソースはヤリイカのソースに、ジャガイモとモロヘイヤのソースを重ねています。 器は、先の有田で行われた料理学会の際に、「やま平窯」に水滴の波紋のようなイメージを伝えて制作依頼したもの。 生命の根源となる水の表現で食をスタートするという意味合いがあるそうです。
包み込むようなやわらかな帆立のテクスチャーとイカと帆立の旨味に、命の源である母なる海を感じます。
リゾットは、秋の始まりの食材である和栗を使ったリゾット。
新栗らしいあっさりとした味わい。 シーズンも終わりのサマートリュフをたっぷりとあしらい、春のモチーフである奥のサクラ模様から中央の夏のサマートリュフを経て、手前の紅葉の模様へと、お皿の上に季節の移ろいが見事に表現されています。
この黒いお皿も有田焼です。1865年創業の徳幸窯の作品で、鉄を混ぜた釉薬により赤味を帯びた模様のあるメタリックな黒になるのだそうです。黒いお皿はメインとなる肉の色がとても映えます。SouRceではA5等級の佐賀牛を一頭買いしていて、この日はランプ肉。猪のリエットやシャンピニオンが添えられ、鮮やかなひと皿となっていました。
全10品のお料理のお皿はすべて有田焼を使用しており、そのひと皿ひと皿にストーリーが感じられるものでした。
有田焼のもつ多様性が、和食に限らず様々な料理に寄り添う器として選ばれる理由なのかも知れません。
■souRce(ソース)
佐賀県武雄市武雄町大字昭和204
TEL:0954-23-6788
【営業時間】11:30~14:00、18:00~21:00 月曜定休
有田の中心部から少し離れたところにある「かむら」は、質の良い「はがくれ牛」がリーズナブルな価格でいただける人気のお店です。レストランと焼肉店を併設していて、県外からも足をはこぶ人も多いのだとか。
「はがくれ牛」とは、佐賀県の有田地域(旧西有田町)で生産された牛肉の旧い呼び方です。
一般的に、現在は県内の食肉牛は「佐賀牛」「佐賀県産牛」などとして統合されていますが、ここ「かむら」では地元である旧西有田町の肉を提供することにこだわりを持ち、「はがくれ牛」という名称をそのまま使っているそうです。 (先に訪問した福野畜産も、この「はがくれ牛」の生産地域にあたります。)
有田焼の大皿で提供される「はがくれ盛り合わせ」(4800円/2人前)。
ヒレ、ロース、カルビといいとこ取りの部位を集めた盛り合わせです。 やや厚めのカットで、しっかりとサシの入った黒毛和牛ならではのおいしさが楽しめます。
スッキリとしたキレのよい脂ときめ細やかな繊維のヒレ肉は、口の中でほどけるような食感。 じんわりと溢れ出す旨味がたまりません。コクのあるロースやジューシーでふわふわのカルビも絶品。それもそのはず。
はがくれ牛は先述の通り佐賀牛であり、その中でも、「かむら」では旧西有田町産のA5等級の牛肉にこだわっているからです。 有田地域は黒髪山系、竜門峡などの水源に囲まれ、水質が良いといわれています。
水の良いところで育つ食肉は脂の質が良くなるといわれており、このスッキリとしながらコクのある味わいは、水質の良い証とも言えるでしょう。
焼肉のタレは30年レシピを一切変えていないというこだわりのタレ。
ニンニクやごまの効いたタレは肉の脂の甘みを引き立てます。
「かむら」は創業50年、社長が一代で築き上げたお店ですが、<有田の次の100年>を考えたときにやはり後継者不足という問題は避けて通れないようです。 こうした話は各所で耳にしますが、このような地元ならではの食材をいただけるお店はぜひとも次世代に向けてつないでいって欲しいと思います。
■かむら
佐賀県西松浦郡有田町下本乙2504
TEL:0955-46-3310
【営業時間】11:00~22:00 木曜定休
「有田陶磁の里プラザ」は有田焼を専門に扱う商社が集まる卸売団地。 日常使いの器から超高級品まで、有田の窯元から生まれた様々な器が取り揃えられています。 全部で24店舗あり、一般の方でも気軽に立ち寄りお買い物できるスポットとなっています。
大きな通りを挟んで左右に店舗が軒を連ねており、それぞれショールームのようになっています。 商社ならではの品揃えが魅力で、のぞいて回るだけでもかなり見ごたえがあります。 中には破格のアウトレット商品などもあり、掘り出し物を探しに遠方から訪れる人もいるそうです。
その中の1軒、「まるぶん」に立ち寄りました。
有田400年の伝統に培われた技術を生かし、現在の生活様式に合うデザインや機能性を備えた器を提案しているそうです。 明るく広々とした店内はシリーズごとに簡単なテーブルコーディネートとして展示され、実際に使う時のイメージがしやすいです。
「究極のラーメン鉢」シリーズはTV番組の企画から生まれたもので、「家庭でインスタントラーメンをおいしく食べるための器」をコンセプトにデザインされました。
このラーメン鉢にそれぞれの窯元が独自に絵付けや釉薬がけを行い、窯元の個性が感じられるバリエーション豊かなラーメン鉢ができあがりました。 有田の泉山陶石を使った白い素地を生かしたデザインは凜とした潔さがあります。
有田やその周辺のお店を巡ってきて気づいたのは、有田焼の器というのはあまりにも地元の人々の日常に根付いているという事でした。「有田の人にはそれぞれマイ茶碗があり、小さな子供でさえ自分のお茶碗を愛着を持って大切に扱う」などという話を聞くと、日常の器でありながらも特別な存在なんだと感じました。アウトレットコーナーで、余白のある蔓花模様の大皿と、モダンな縞模様の蓋付き小鉢を買いました。自分にとって特別な器に育てて行けたらと思います。
■有田陶磁の里プラザ
佐賀県西松浦郡有田町赤坂丙2351番地170
TEL:0955-43-2288
【営業時間】9:00~17:00 年中無休
有田の水源を支える竜門ダムの支流となっている龍門峡沿いに、「龍泉荘」という川魚料理を専門にした料亭があります。その奥に、「木もれ陽」という、くつろぎのカフェがありました。
料亭の別棟に併設されたカフェながら、ラテアートのチャンピオンが在籍しているという本格派のこだわりが感じられるお店です。
入口は趣のある門構え。
竜門峡に架かる橋を越えたその先に、奥の院「木もれ陽」がありました。
店主は「UCCバリスタ九州大会2015」で優勝したラテアートのスペシャリスト。
きめ細かなフォームミルクで表現される美しいラテアートは必見です。
コーヒーには、日本名水百選にも選ばれた竜門峡の湧き水を使用し、その口当たりの良いおいしい水に合わせてコーヒーを生豆からブレンド、自家焙煎をしています。
8時間かけて落とす水出しコーヒーもオススメ。テラスから見下ろす竜門峡の湧き水を使い、コクとナッツのような香ばしいコーヒーはスッと体に入っていきます。おいしい水の贅沢な楽しみ方ですね。
さて、こちらでも佐賀牛のお料理がいただけます。 「木もれ陽バーガー」は佐賀牛のステーキ用肉を使用したパティをサンドした贅沢なバーガー。 佐賀牛100%で、柔らかくジューシーな肉の旨味がたっぷり楽しめます。 バンズはバーガーに合わせて作られており、あっさりとして肉の食感や味わいを邪魔しない味。 もちろんお皿もさりげなく有田焼が使われています。
バンズのみならず、パンも人気で週末には遠方から噂を聞きつけて買いに来る人もいるほど。
天然酵母を使用し時間をかけて作られたパンは、ふんわりと酵母が香り味わい深く、シンプルなパンだけでなく、菓子パンや惣菜パンでもおいしくいただけます。
■龍泉荘 奥の院 木もれ陽
佐賀県有田町広瀬山甲2373-4
TEL:0955-41-2525
【営業時間】10:30~19:00(L.O.18:30)木曜定休、年末年始休
「嬉茶楽館」は嬉野茶の品質向上と普及を目的とした施設となっており、品評会出品用のお茶を作ったりする他、茶摘みのシーズンには一般の方も茶摘み体験や手もみ体験、お茶の淹れ方講座などが体験できます。
佐賀県の名産品でもある嬉野茶の歴史は古く、今から約580年前までさかのぼります。
永享12年(1440年)に中国大陸から渡ってきた唐人が陶器を焼く技術と共に、嬉野の地に自家用茶の栽培技術をもたらしたとされています。その後、永正元年(1504年)に南京釜での釜煎り茶の製法が伝わると、佐賀藩の吉村新兵衛が嬉野の地での茶樹栽培と製茶の普及に力を入れ、嬉野茶の誕生のきっかけとなったそうです。江時代の幕末には長崎の出島を通じて嬉野茶は海外へ輸出されていました。
嬉野茶の一番の特徴は「釜煎り」というその製法にあります。
通常は生茶葉を蒸してから茶揉みしますが、「釜煎り茶」は生茶葉を直接高温の釜で炒ります。
嬉野の炒り釜は「傾斜釜」と呼ばれており、釜を斜めに傾斜させることで製茶効率をあげる改良がなされています。
釜底が400℃になった時に生茶葉を投入し、そのまま12分ほど葉を炒った後、むしろに広げて手で茶葉を揉んで行きます。揉んだ茶葉は6時間ほど干すと水分が抜け、製品として加工する前の状態である「荒茶」に仕上がったときには1/5くらいの重さになっているそうです。
実際は手作業で行うのは体験時のみで、荒茶への加工は大型の機械で行われています。
大まかな工程は同じですが、9つの機械を通って炒ったり揉んだりされていきます。 またこちらの工場では別のラインで蒸し製玉緑茶も作られています。 そして荒茶に乾燥や分別・ブレンドという加工を施し、製品としてのお茶ができあがります。
新茶は毎年8月に全国規模の品評会が行われ、9月にその結果を受けて入札が行われます。
そして品評会入賞茶として店頭に並ぶのだそうです。 嬉野茶は蒸し製玉録茶で平成21~25年まで5年連続農林水産大臣賞を受賞しており、その後も地域賞などの受賞を続けています。
捻れておらずくるりと丸まった勾玉型の茶葉が特徴で、まろやかで旨味の強いお茶です。 一方、釜炒り茶は茶葉そのものの水分で炒るので大変に香りが良く、のどごしの良いお茶になっています。
こうして高品質なお茶作りの努力がなされている嬉野茶ですが、やはり農業従事者の高齢化は避けて通れない問題のようです。茶園の後継者がおらず、耕作放棄地になってしまうと、嬉野茶の生産量も減ってしまいます。
また、お茶の需要がペットボトルに取って代わられつつあり、お茶専門店で販売するような品質の良いお茶を作っても、その需要がなければ生産者のモチベーションも下がってしまうといいます。
580年の嬉野茶の歴史を次の100年に向けて繋いでいけるよう、いいものを知りその理由や背景を知るという努力をしていかなければならないのかも知れません。
工場見学の後は、お茶風呂に入れるという「茶心の宿 和楽園」に立ち寄りました。
急須から流れ出るお湯はなんと本物のお茶!茶処嬉野が温泉地だからこそできる贅沢です。このほかにも「茶心の宿 和楽園」では、滞在中の様々なシーンに合わせたお茶を提案してくださるそうです。めいっぱい嬉野のお茶を満喫できて、嬉しい旅になりそうです。
■嬉茶楽館
佐賀県嬉野市嬉野町大字岩屋川内乙2713
TEL:0954-43-5266
【営業時間】 [開館時間] 8:30 ~17:00、[体験時間] 10:00 ~16:00、土・日、祝日、年末年始休館
■嬉野温泉 茶心の宿 和楽園
佐賀県嬉野市嬉野町下野甲33
TEL:0954-43-3181
2009年から2015年にかけて、武雄市には「いのしし課」がありました。(現在は農林課に統合されていますが)その「いのしし課」、イノシシによる農作物への深刻な被害を防ぎ、地域の資源として活用する取り組みを模索する中で作られた課なのだそうです。
武雄地域鳥獣加工処理センター「やまんくじら」と連携し、捕獲したイノシシを食肉として加工、「武雄パルファム」として食肉をブランド化しました。 その武雄パルファムを使ったメニューが食べられるのが「武雄センチュリーホテル」です。
「武雄パルファム」は12/15~3/15の期間に捕獲された雌のイノシシを、武雄市の管理のもと解体し、独自の熟成を行ったイノシシ肉です。
イノシシ独特の獣の臭みが感じられず、今までのイノシシ肉のイメージを塗り替えるような、本格派ジビエブランドです。 武雄センチュリーホテルでは、1FのラウンジTIFFANYと2FのToukaenで味わうことができます。
1FのTIFFANYでいただけるのが、武雄パルファムバーガー。
「武雄パルファム」を100%使用したという肉厚のパティにナスを合わせているのが印象的。 あっさりした赤身の肉質にスパイスをしっかりと使っており、全く臭みは感じられません。 全体を引き締めるマスタードソースが良いアクセントとなっています。
「武雄パルファム」は何も知らされなければ、イノシシ肉とは気付かないかも知れません。そのくらい食べやすく、旨味の濃い肉でした。
一方、2FのToukaenでは、カレーがいただけます。
「武雄パルファム」は柔らかく煮こまれ、赤身の繊維質と脂の層がふんわりとほぐれます。 辛さは控えめで、子供からお年寄りまで食べやすい味になっています。
実はこのカレーは、レトルトカレーとしても販売されており、カレーに合わせた「さがびより」という県産のお米とのセットを同ホテル内のギフトショップで購入することができます。 ふるさと納税でも人気の商品なのだとか。
ご当地ジビエブランドとして作られた「武雄パルファム」を気軽に楽しむのに、ハンバーガーやカレーはピッタリですね。
■武雄センチュリーホテル
佐賀県武雄市武雄町武雄4075-13
TEL:0954-22-2200