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第8回 JTB交流文化賞 受賞作品紹介
交流文化体験賞ジュニア部門
最優秀賞(中学生)
都会っ子の一人旅 in 平戸
深澤 崇史

(イメージ) 宿から玄界灘沿いに20分。平戸口桟橋バス停に到着。澄んだ海の対岸に見える平戸の街を眺めながら、僕はワクワクしていた。前日を丸1日移動日にして、はるばる大阪からやってきたのだ。ふとバスの時刻表を見る。と、次の瞬間、僕は自分の目を疑った。なんとバスがあと1時間半以上来ないのだ。どうやら前のバスが行った後らしい。どうにかしなければと焦った僕は、強引にも対岸まで歩くことにした。強い日差しの中、僕の一人旅は今、再開した。

今年で中2になった僕は、中学校生活にも慣れ、新たな刺激を求めるため、夏休みに一人旅を企画した。今まで夏休みには、家族旅行に行っていたのだが、今年は僕一人で9泊10日の長旅をしてみることに決めた。主な目的は、自分一人でできる限界を知り、自立するには何が足りないかを探すことだ。東京で何不自由なく過ごしてきた僕にとって、初めての一人旅は自分を成長させるチャンスかつ、大きなチャレンジだ。

このチャンスを活かすには、計画作りから真剣にやらねばならない。何度も迷った末、今回は僕が行きたかった所を沢山回ることにした。東京に並ぶ大都市の名古屋と大阪を始め、古都の京都と奈良、そして異国とのつながり深い平戸と長崎を10日間で回るのだ。少し急ぎ足の旅になったが、密な時間を過ごせた。今回は、旅の中で最も僕に影響を与えてくれた、平戸での出来事を紹介したい。

1日目、大阪で食い倒れずに耐えた僕は、新幹線で博多へ。車内で計画の微調整を行う。その後、博多から特急みどり号を使って佐世保へ。ここまで約5時間。午後3時過ぎに佐世保に着き、最後の乗り換え。改札を通ってホームに出ると、まだ電車は来ていない。そこで、ベンチを探そうと周りを見ると、線路にバスが止まっていた。何故だろうと思い、近づいてみると乗り物の側面に伊万里行き、と書いてあった。僕はこれが電車だと気づくのに1分程度かかった。毎日僕が通学に使っている12両編成の山手線と比べると、1両しかないこの乗り物は僕にとって電車と呼べるものではなかったからだ。中に入っても、バスにあるような料金箱と料金を示す電光掲示板があり、とても電車とは思えなかった。発車してからは、限りなく続く田園風景を眺めて、田舎に来てしまったな、と思った。

2日目、朝から玄界灘の見える食堂で鯛のさし身を食べる。 今日は平戸の街をじっくり見物するつもりだ。平戸口桟橋バス停から出るバスに乗れば、平戸城まで15分で行ける。約4qだ。時間に余裕をもって出発したが、ここで僕は田舎の恐しさを知った。バスが来ないのだ。運に見放された僕は、1時間弱歩くことになった。ようやく着いた平戸城で平戸の景色を堪能して、聖フランシスコ・ザビエル記念聖堂へ行く。その後、松浦史料博物館に行き、蒙古襲来絵巻や伊能忠敬の地図を見た。最後は平戸オランダ商館。海外から渡ってきた品物を見た。帰りはバスで宿に戻ると、相部屋のおじさんが来ていた。おじさんは大阪から来たらしく、彼も一人旅をしているそうだ。彼の話を聞いた後、いきなり、「君は大学生か。」と聞かれた。背も高くなく、やせている僕は驚きながら、「いいえ、中学生です。」と答えた。すると彼は僕の驚きに気づいたのか、笑って「あまり年を低く聞きすぎると失礼だから。」と言ってくれた。ほっとした僕は、彼が長崎に寄ってきたことを知り、二人で旅の情報交換をした。大人のおじさんが、僕に対等に接してくれて、僕はうれしかった。

3日目、長崎に行く前に、たびら昆虫博物館に寄ることにした。最寄り駅の西田平でスーツケースを預けようと電車から降りると、すぐに期待を裏切られた。駅にはコインロッカーどころか、人もいないのだ。僕が通るのは、舗装のされていない上り坂で、スーツケースとの相性は最悪だった。たった2kmの道のりも、なんと40分かかってしまった。博物館では、実際に虫のいる林で、直接虫達と触れあった。とても楽しく、気づくと二時間も経っていた。そこで、僕はまた焦る。数少ない電車の1本が、あと10分で行ってしまうからだ。するとそこに昆虫ガイドさんが現れて、一人の僕に「駅まで車で送ろうか。」と言われた。僕は助かったと思い、車で駅まで送ってもらった。おかげで電車には間に合い、無事に平戸の旅を終えることができた。僕は彼に深く感謝しながら、長崎に向かった。

短い間だったが、僕は平戸で一つ大切なことを学んだ。それは、もし自分の力では解けない問題ができたら、自分で無理をせず、積極的に他人に頼ればいいということだ。現代ではグローバル化やIT化が進み、複雑な問題が増えている。そこで僕は、積極的に人に頼りながら、少しでも前に進んでいきたい。

評価のポイント

中学2年生の夏休み、初めてのひとり旅に出る。都会で何の不自由もなく育ってきた筆者にとって、自分を成長させるチャンスと思い立った旅だったが、自分ひとりでできることの限界も学ぶ。旅先では、その土地ならではの決して便利とはいえない状況を新鮮に感じながら、人と触れ合い、前に進む様子が豊かな描写で表現されている。今回のひとり旅で自立心が芽生え、人とのつながりの大切さを感じ取った様子が伝わってくる作品。



※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。