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第8回 JTB交流文化賞 受賞作品紹介
交流文化体験賞一般個人部門
優秀賞
西表島に染まる日々
塚口 洋子
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(イメージ)

生活は考える余裕なく始まりました。西表に来て2日目、沖縄の信仰の行事、御嶽の前で稲の成長と豊作、氏子たちの無病息災を祈りました。私がご挨拶に行ったこの御嶽は「旅の安全」にご利益があるそうです。西表島は稲作文化が中心でお祭り事も稲作儀礼が多いようです。6月は稲刈りの時期、7月には豊年祭、刈り取ったわらで、大綱引き用の縄を町民の若い男性たちが作り、子供たちは代々伝わってきたように神輿を作ります。女性はお祭りの為に働く方たちの為に料理を作り、御嶽での行事の為にもご馳走を作ります。この様に稲作を大切にする文化、西表の稲作文化、食と生活、人々が密着した文化を目の当たりにし毎日お米に感謝しながら食べるようになりました。行事のある事に見知らぬ土地から来た私を温かく家に御嶽にと呼んでくれる町の方たちにも感謝しています。稲作儀礼からの舞踊、音楽、民謡も多くあり行事により全て違います。稲の事を考え三線を弾いてはいけない日まであるのです。月と旧暦で生活する文化です。そして、行事のための衣装もあります。衣装を作るための布を工房でも作っていました。植物繊維から糸を作る事にも意味があります。例えばカラムシ(別名、苧麻)の繊維で作る衣装は魔除けの意味があり、御嶽で神に仕える方が着ていることや、ティサージといって、旅の安全を祈り、あるいは好きな人に思いを込めて織る布もあります。(イメージ) 八重山では布もまた神事、生活、精神的な事に密接に関わる文化として続いているのです。私は単に綺麗な布を植物染料と植物素材から作りたいと思っていましたが西表の生活を通じて、布づくりにはもっと深い意味があること、稲作儀礼があり、着る人作る人がいることを知りました。本来身を守る衣装、布には多くの思いが込められていたのです。私の布作りはなかなか進みません、お蚕さんから糸を作り、藍を刈り発酵させ時間をかけて藍を建て染めます。その合間に苧麻が育ち苧麻を刈り、繊維を取り糸にします。採れたての藍の葉で贅沢に染める生葉染め、自分の作った糸に染めると見たことのない透明感のある水色になりました。竹富島の海の色に似てあまりの美しさ、若さの色に圧倒されます。毎日同じ染料と同じ素材で染めても2度と同じ色は出ない、微妙に違う色になります。化学繊維を天然の色で染めても相性が悪く、自然の色には自然の繊維が良く合います。海ざらしといって川と海の水が交わる場所で布を洗います。水に泳ぐ布と大自然に包まれ、生きている事を実感します。毎日季節の植物に触れ、採れ時期を見ながら材料を作る。そうしている間に西表も秋の空気で過ごしやすい日が続いています。西表では子供たちが町の主役のようです。町の大人が町の子供たちをみんなで育てている印象があります。陸上競技、運動会も春と秋にあります。子供の人数が少ないので幼稚園児から80代のおじい、おばあまで走ります。運動が得意な島の人々です。運動、芸能、音楽の盛んな島ですが、美術に関しては少し物足りない気がします。島の学校には美術の先生がいません。美術館やギャラリー、図書館もありません。せっかくなので私は子供たちに造形・絵画を教えてみたいと思いました。行事が多い合間に少しでもアートの楽しさを伝えたい、島でお役にたてる事をしたいと思いました。西表には多くの自然からの材料があります。絵画教室では元気に大きな絵を描いたり、立体物を作りと子供たちは素直にアートを楽しんでいます。毎日見ている鮮やかな空、大きな森林、魚や動物を描くと熱帯の生き物なのでカラフルです。所変われば子供の作品も変わります。鮮やかな素敵な作品が飛び出すのでいつの日か島のアート展が出来たらと思っています。 西表では衣食住の重要性と人々とのコミュニティのあり方本来の人間らしい生活があります。古くからの生活や文化が都会から来た私には新鮮でこれからの未来の生活の目標にもなるように思います。町の人々が一緒に笑い、一緒に作る文化を染織と一緒に勉強する毎日です。もちろん、島の人々と意見があわず、思う様に糸が染まらない事も沢山あります。全てが研修中の日々です。あの1時間半の西表旅行からこの様な深い生活をすることになるとは想像していませんでした。もう少し西表の修行、人生の旅は続きます。そして私はこれからもどこにいても西表で学んだ事を大切にして作品を制作します。布には生命と生活と文化、人々が関わること魂があることを忘れずに作り続けていこうと思います。これから10月には重要無形民俗文化財に指定された農作業上の正月儀礼の大きなお祭りがあります。この日の準備が始まっています。冬には待ちに待った芭蕉の刈り時です。これからも新たな出会いや発見が続きます。


評価のポイント

3泊4日で家族と訪れた石垣島。うち1日を利用してわずか1時間半の滞在で西表島の織物の工房を訪問した。そこで植物染料に魅せられ、一大決意で仕事を辞めて西表島の工房へ修行に移り住むことになった。旅で人生が変わることに旅の価値が感じられる作品。


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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。