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“過剰的親切・チャイナ”深夜の北京西駅での出来事
上浦 未来
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  けれど、ここにもすぐに新たな中国人が近づいてきた。今度は、20代ぐらいの若い青年で、もちろん中国語しか話せない。筆談を使って会話をすると、ここで寝ちゃダメだ、と眠ろうとする私を心配して、人のバックパックを勝手にかつぎ、公安の人がいる場所に連れて行こうとした。時刻はすでに3時過ぎ。「この時間だし、もう、ホテルは大丈夫」。そう拒否すると、私のガイドブックをめくリはじめた。そして、どうしても伝えたいことがあったらしく、文字が書かれている上から思いっきり文字を書き、ジェスチャー付きで「いいかい、朝になったら、トントン、トントン。朝になったら、トントン、トントンだよ」。何度も同じことを繰り返すが、このトントントンが、何をさしているのか、まったくわからない。「?」をノートに書くと、青年は伝わらないことに悶絶。筆談で会話を続けるが、わたしが中国の漢字を理解出来ない。わからない漢字にハテナを書き、簡単にしてもらう、という行為を何度も繰り返していると、「あぁ、なぜ伝わらない!」という表情で、さらにもがき苦しみ始めた。その姿があんまり一生懸命なので、見ていてちょっとおもしろくなるが、さすがに眠くなってきて、もうそろそろ寝たいということを伝える。

  そのことが伝わったのか、青年は私のことを気にしながらもその場を立ち去った。ようやく大人しく眠れると思い、バッグにもたれ、目を閉じる。そこへ、ドスンと重いものが手に落ちた。ナンだと思い、ハッと目を開いてみると、手にはペットボトルの紅茶とパン。横を見ると、先ほどの青年がいた。どうやら、ホテルに泊まらず、ここにいるぐらいだから、お腹がすいているかもしれない、と食べ物を買ってきてくれたようだった。新聞紙に続き、ご飯まで恵んでもらってしまい、なんだかかわいそうな貧乏旅行者・私を想像し、思わず笑ってしまう。

  お礼を言い、お腹が空いてないから朝食べるよ、ということを伝えようと、「今満腹」「朝食」とノートに書くと、納得したのか、どこかへ消えてしまった。再び目を閉じ、今度こそ寝ようとするが、しばらくすると、またも青年が現れた。そして、今度はお湯の入ったカップラーメンを手に登場した。カップラーメン!? どうやら「満腹」という漢字は伝わらなかったらしく、別の食べ物をわざわざ買ってきてくれたのだった。深夜というか明け方、まったくお腹は空いていなかったが、せっかくなので、麺が伸びる前にありがたくいただく。深夜4時、わたしは一体中国の駅で何をしているのだろう、と思いながら。

  青年は私が食べ終わるのを見届けると、さっき別の人に恵んでもらった残りの新聞紙を、私のバックパックの横に広げ、すやすやと眠ってしまった。エーッ。どうやらボディガードのつもりだったようだが、隣に若い男がいた方が困る。そうは思いつつも、体が限界を迎え、気がつくと眠っていた。
  朝に目が覚めると、青年はまだ眠っていた。けれど、ほどなくして、突如、むくっと立ち上がり、私のガイドブックに巨大な文字で名前と携帯電話の番号を書き込み、手を振って、どこかへ行ってしまった。何を求める訳でもなく。

  深夜に起きた、中国人との怒涛の出会い。たった1日で、私が考える中国人という人々の印象がガラリと変わった。テレビを見ているだけではわからない、テレビの向こう側の世界が、そこにはあった。



評価のポイント
  中国一人旅をしていた筆者は、列車が満席で突発的に一夜を北京西駅で過ごすこととなる。その中で公安の人との筆談、若い青年からの差し入れなど、次々と深夜に起きた中国人との怒涛の出会いが、筆者の中国人の印象をガラリと変える出来事となった。女性ひとりが見ず知らずの中国で体験した見ず知らずの人達との出会いに臨場感が溢れている作品。

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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。