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トップ > JTB地域交流トップ > JTB交流創造賞 > 受賞作品 > 交流文化賞(組織・団体対象) > 松浦党の里ほんなもん体験
5 究極の食育と環境学習 食べ物の旬や鮮度が分からないという人が増えています。「食文化」が日常生活から遠ざかるなか、私たちは美しい自然の中の草木や食材に季節を感じ、季節や鮮度で食材を使い分ける「自然と共にある生活」を大切にしています。 農林漁業体験(特に味覚体験)や民泊では、新鮮な魚介類や野菜を使った料理を子どもたちが自分で作れるように指導します。また、定置網や地引き網、港釣りや船釣りで獲った魚、農業体験で収穫した野菜などを民泊先に持ち帰って夕食にしています。食事中、「魚がめっちゃ美味しい! この野菜ちょう旨い!」と言いながら食べる子どもたちの表情が印象的です。 子どもたちは、農林漁業体験や民泊を通して、第一次産業のおかれた大変厳しい環境(農産物の輸入自由化や価格の引き下げ、海水温の上昇などによる漁獲量の減少・魚価の低迷・燃油の高騰、食の安全・食糧自給率・危機的な後継者不足の問題など)に直に触れ、田畑や海と共に生きる人々の「こころ」に出逢うことで、命の源である「食」の大切さやその価値、自然との共生・共存、自然保護などについて学びます。 和牛農家体験では、肉牛生産の「繁殖」と「肥育」の分業、稲作畑作との組み合わせによる循環型農業の様子を学び、森林間伐体験では、森の環境と木々の生態、人工林の管理が如何に森林の保護に必要で土石流などの自然災害防止に重要であるか、また、豊かな森があるからこそ魚の棲む豊かな海が育まれるといった環境問題について学びます。 このように農山漁村での体験活動は、究極の食育と環境学習であると言えます。
6 体験や民泊を通して得られる教育的効果〜「力強く生きる力」の育成〜 ○環境の異なる地域、他の世代との交流により視野が広がり、多様な価値観を形成できます。 ○厳しい自然と過疎化の中で懸命に生きる人々に学ぶことで、社会や生活への興味、関心、意欲が向上します。 ○人間関係の絆を深め、コミュニケーション能力を高めます。 ○課題発見、対応能力も育成することができ、生きるために必要な知識や技術を身につけることができます。 ○自己確認と達成感を得ます。 ○働くことの意味、感謝の気持ちが培われます。 ○循環型社会や環境問題について考え、行動する機会となります。 ○自然との共生・共存、自然保護について考えます。 ○自信や誇りを持つことで次への動機が生まれ、主体的な行動につながります。 ○学習・知識に対する興味・関心・意欲を高めます。 ○安全確保について学び、考える機会となります。
7 教育効果の高い体験活動を支える安全対策 体験活動は、農漁業や伝統的食文化、環境への理解を深め、コミュニケーション能力を高める絶好の機会です。教育目的の体験や民泊は、その目的が達成できるレベルのプログラムでなければならず、また、楽しみながら学校や家庭で学べない大切なものを学べなければなりません。 このためには、「簡単・楽」「やさしい」「お手軽・すぐできる」「安全・雨天中止」「便利・合理的」「近代的・最新式」な体験ではなく、次のような理念をしっかり捉えることが重要です。 (1)大変だから→優越感が生まれ、自慢ができ、自信につながります。 (2)難しいから→乗り越えた喜びがあり、達成感があります。 (3)時間がかかるから→交流があり、人間関係が構築できます。 (4)危ないから・天候が変わるから→安全対策や健康管理のノウハウが身につき、自然環境や農林漁業が深く理解できます。 (5)不便・不合理だから→工夫し合理性を見出し、創造力・問題解決能力の向上につながります。 (6)原始的・旧式だから→手先や体を十分に使い、知恵や技術を知り、自己能力を発見し、自信が持てます。 このような理念とともに、体験活動が求められる背景、体験や民泊の進め方、安全対策、緊急時の対応などについて、年間延べ60回を超える座学と実地の講習会を実施しています。 特に民泊における安全対策については、衛生管理基準を定めるほか、「食中毒予防の5つのポイント」として、(1)食品の準備、(2)調理場内の保存、(3)下準備、(4)調理、(5)食事の各段階における対策などを常に指導徹底しています。 また、体験における安全対策として、例えば、漁業体験では全員にライフベストを着用させ、体験場所を港の至近に限定して漁船同士での相互監視ができるようにしています。さらに監視艇を出し、体験を中断せずに船酔いやトイレの人を陸に揚げる任務に就かせています。 このように安全対策の指導を徹底し、決して事故が起こらないようシステムのチェックと安全に対する注意喚起を定期的に行っています。
8 活動の成果 修学旅行の受入れは平成15年度に始まり、受入人数も同年度約1,000名、16年度約3,300名、17年度約4,500名と年々増加し、18年度には単年度10,000名を超え、経済効果も1億円(直接効果)を上回りました。 受入側の当初の反応は、「田舎だから何もないし、こんな所に修学旅行生がくるはずがない。他人を泊めるのはちょっと・・・」と、なかなか受入れると言ってもらえませんでしたが、何とか受入れを終えると、「楽しかった!」「家の中が久しぶりに賑おうた!」「よかコトしてくれたね!」「今度はいつな?」と異口同音に評価してくれました。 農漁民である担い手は、体験や民泊を通して子どもたちが感動し、活き活きとした表情に変わり、涙ながらに「帰りたくない!」と語る姿に出会うことで、青少年の健全育成に自ら役立っているという実感、生きがいに出会えたことや社会貢献の喜びと誇りを得るようになりました。体験型観光によってかつてのような自信や誇りを取り戻したことで地域が輝いて見えるようになりました。 一方、経済的な面で担い手である漁家の一人は、体験型観光で得た昨年の収入を合計したら、とても現在の本業のおかれた状況で水揚げできるものではなく、この事業を大切に育てなければならない、と言っていました。本地域の農漁業の苦戦ぶりを表す言葉でもありますが、農漁業が体験型観光を同化しつつあることを示す言葉とも受け取れます。担い手たちは、青少年の「生きる力」を育むという社会貢献に誇りを持ち、満足しながら農漁業を続けられることを心から喜んでいます。 平成19年2月、松浦市を中心に開催した「第4回全国ほんもの体験フォーラムinながさき」では、北海道から沖縄まで全国各地から1,000名を超える参加を得て大成功を収めることができました。フォーラムを通じて全国各地の団体と交流を深めるとともに、積極的な情報発信を行うなど体験型観光の推進に微力ながら貢献できたことは、私たちにとって大きな自信につながりました。 また、これらの取り組みが評価され、同年3月、「第4回オーライ! ニッポン大賞グランプリ(内閣総理大臣賞)」を受賞し、これからの取り組みに大きな弾みとなりました。 これを機に松浦市では、同年9月、「ほんもの体験日本一のまちづくり」を宣言し、市民総参加の意識を醸成するとともに、10月には両団体や松浦市等による官民協働の推進組織「松浦市ほんもの体験日本一のまちづくり推進本部(本部長は当NPO法人理事長)」を立ち上げ、体験交流を新たな産業として育て、魅力あるまちづくりを進めることにしています。 今後は、これまでの体験型教育旅行の取り組みをさらに充実するとともに、団塊世代など個人旅行者向けの商品開発や誘致活動にも力を入れ、当面3万人の受入れを目標に官民一体となって「ほんもの体験日本一のまちづくり」を進めていきます。