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第1回 JTB交流文化賞 受賞作品紹介
交流文化賞
最優秀賞
コウノトリも暮らすまちへ 豊岡の挑戦
兵庫県豊岡市企画部コウノトリ共生課
 豊岡市は兵庫県北部に位置する環日本海のまち、かつては日本のいたるところで見ることのできたコウノトリの日本最後の生息地であった。豊岡とコウノトリの関係を遡ると、田んぼで稲を踏む害鳥として、全国各地で乱獲され生息数が激減していた100年前、豊岡の人々は松の木に営巣してヒナをかえすコウノトリを愛で、茶店を出して見物していた。当時の人々は「コウノトリ」が象徴するように多様な側面を合わせ持つ環境・風土を受け入れ、おおらかに暮らしていた。

 戦後、コウノトリの保護活動は組織的に動き出し、1955年からは官民一体となったコウノトリ保護運動が始まり、1965年からは人工飼育を始めたが、苦難の連続であった。待望のヒナが誕生したのでは1989年であった。
コウノトリの保護活動が軌道に乗り始めると、目標はコウノトリをいう「種」の保存を核として、コウノトリをもう一度野生に戻すこと、コウノトリも住める環境をつくることへと膨らんでいった。

  2002年、市はコウノトリをシンボルとしてまちづくりを進めることを宣言し、これを総合的に推進するため、企画部にコウノトリ共生推進課(現コウノトリ共生課)を設置、県と共に「コウノトリ野生復帰推進計画」「コウノトリ翔る地域まるごと博物館構想・計画」を策定した。コウノトリも住める環境を創造することは、住民に深く染み付いた生活様式と価値観を持続可能な環境適合型に変えていくことであり、生活のいたるところで環境を意識することで、それらが複合的に関係しあい、新しいものづくりや暮らし方の創出に繋がっていった。

  2005年、市は持続可能なまちづくりを進めていくビジョンとなる「豊岡市環境経済戦略」を策定し、環境への取り組みを持続可能なものとし、それを経済的に自立して成り立たせることを目指していった。戦略としては、「豊岡型地産地消の推進」「豊岡型有機農業の推進」「コウノトリツーリズムの展開」「環境経済型企業の集積」「エコエネルギーの利用」を基軸とした。これらは、「地元への愛着や理解」「研究」「文化」「健康」「農」「ものづくり」「知」「観光」というテーマにおいて、相互に補完しあっていった。
  コウノトリが住めなくなった原因の一つは農薬の使用であった。そこで1995年からアイガモによる無農薬の米づくりがはじまり、田植えや稲刈り体験などを通じて住民と市内外の生産者との交流が深まっていった。この取組みが契機となり「本物の交流」を追求する動きが広まり、化学肥料や農薬に頼らず、作物の様子を見ながら豊岡の地にあった農業を確立し、新しい技術の導入にも積極的に取組んでいった。2003年には安全・安心農産物の認定制度を受け、独自のブランドとして「コウノトリの舞」を商標登録した。
  また、農村の美しい景観づくりと自然再生をセットで推進していくことは、生き物を復活させるだけでなく、そこでの生活者にとっても生活の潤いを与えてくれる空間の再創造になると考え、「地域まるごと博物館構想・計画」に基づいた美しい村づくりのため、電柱の地中化、農道への植花運動を展開していった。
  コウノトリ野生復帰を中心とした自然環境への取組みの進展とともに、旅行だけでなく、視察、研修、研究などの目的での訪問や、環境教育の場として修学旅行の受け入れなど、地域内外の交流が活発となっていった。また、全国に呼びかけ、コウノトリ野生復帰事業に参加・支援していただくための組織「コウノトリファンクラブ」が設立された。
  このようにコウノトリを受け入れて暮らしてきたかつての人々のおおらかさと、コウノトリを人口飼育してきた人々の熱い願いを受け継いで、豊岡市は将来にわたってコウノトリも住める持続可能なまちをつくるために官民一体となって努力してきたのである。


評価のポイント
コウノトリを単に復活させただけでなく、農業、食、地域のあり方など、地域全体を蘇らせた示唆に富んだ取り組みである。地域住民が一体となり自然環境を守っていく、未来志向型の交流文化の取組みといえる。

受賞の言葉
「交流文化」をテーマとした第1回JTB交流文化賞の最優秀賞に選ばれたことを、大変光栄に思います。一度日本の空から姿を消したコウノトリを野生に帰す取組みは、今秋、飼育個体の放鳥で新たな1歩を踏み出しました。保護運動が始まって50年、人工増殖に取り組んで40年、長い時間だけでなく、多くの人の苦労やお金が注がれました。そしてその間、取組みは生きものを育む農業や美しい田園景観づくり、環境教育など様々な分野に広がっていきました。しかし、この物語は長いプロローグを経て、本編に入ったばかりです。かつて、日本に当たり前にあった人と自然が折り合いをつけながら暮らしていた頃の共生文化を取り戻すには、これまで以上の時間と労力が必要かもしれません。今回の受賞を機に、より多くの人に来ていただき、「なつかしくて新しい」ふるさとづくりという物語を一緒に紡いでいきたいと思います。豊岡はこれからも挑戦を続けます。

兵庫県豊岡市企画部コウノトリ共生課

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。